復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

終末砂漠を彷徨うセカイ系・少女友情短編ノベルゲー『q.u.q.』感想

steamにて『q.u.q.』という短編ノベルゲームをプレイしました。

EDは9つでプレイ時間は1時間。

既読スキップ機能もあるし、選択肢直前のオートセーブもあるのでED回収もしやすく、システムとしては快適の一言。

 

親友のせいで歪んだ世界の責任を取るため砂漠を彷徨い、辿り着いた街で世界を壊す3つの単語を探すというストーリーで、分類するとセカイ系少女・友情ノベルになる感じ。

私が今作で気に入ってるところはたくさんあって、まずは赤・白・黒で塗り分けられた世界の色彩デザイン!



死と終末を感じさせる色の中を、自分がこの世界を壊せる決定打を求めて彷徨っていくのがたまらなくいいです。

そしてさらに良かったのが音楽!

YouTubeに全曲ライナーノーツ付きで作者が上げてくれるんだけど、全曲私は好きだな。

私はもちろんサントラを買ったけど(このクオリティで全29曲235円はお買い得すぎる)そっちにはライナーノーツの日本語訳テキストも添付されてて助かりました


という訳で以下、ストーリーのネタバレ感想&サントラ感想。

 




 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

まずはストーリー感想から。

私が今作で一番好きな場面って序盤も序盤、異邦人の水を受け取らずに砂漠で衰弱死するEDのところなんですよ。

灼熱の白い太陽の下、少女は焼けた砂に横たわり続け、独特の模様が広がる緋色の地平線へつかれた視線を注いでいました。

うずまき、ねじれ、虹色に輝き、美しく魅力的なフラクタル構造を形成していました。

いつもなら足元へ視線を向け、目を細めて上側だけを見ているのに、いまは踊る形から目をはなせませんでした。

少女「もし気が狂ったら、死ぬのもそんなに怖くないのかな?」

少女は考えました。

 

見れば見るほど、地平線は近づいて見えました。

フラクタルはますます複雑になり、どんどん大きくなっているように見えました。

やがて模様は砂の上をゆっくりと這いはじめ、瑠璃色から深紅色へと色彩を変えて輝き出しました。


数分後、模様は少女の視界全体を覆いました。

混沌の踊りの一部ではなく、一つの巨大で複雑な有機物のように脈動していました。

さらに数分後、少女は地面と空の区別がつかなくなりました。

何百、何千という色とりどりの形が、目の中で単調に脈動していました。


少女はすでに深い眠りに落ちていて、フラクタルのベールの言葉なき子守唄に包まれて、ゆっくりと死につつありました。

 

おわり

 

このEDを迎えた時、私は熊本にある装飾古墳の一つ、王塚古墳の玄室を思い浮かべたんだよね。

(引用:https://mainichi.jp/articles/20230304/ddp/014/040/006000c


何か本当に、死ぬ時ってこんな感じなのかもしれないって思ったんですよ。

人の命が崩壊していく時、その目がこの死の先に捉える世界は自分よりもっとシンプルな線と面、フラクタルな図形模様でしかないのかもしれない。

1500年前(この古墳が作られたのは6世紀前半なので)にもそう考えた人間がいて、1500年後の未来にもこう考えている人間がいる。

忘れ去られることなく1500年の時を耐えた死生観はその不変さゆえにまるで真実みたい。

 

実際、ハッチが最期に見た光景が真実なのかどうかは私が死ぬ時に分かるのかもしれないし、分からないのかもしれない。

でも確かめられるチャンスは必ず来る。

明日か明後日か、数十年後のいつの日にか必ず、私の命の終わりに一回だけ。

プレイヤーの死生観にすら影響を与える場面を、序盤でぶつけられた瞬間から私はこのゲームの虜でした。

加えて音楽まで良いんだから参っちゃうね。

 

 

 

サントラ(ライナーノーツ和訳付き)感想

冒頭で言った作者が全曲フルで上げてるOSTっていうのが以下の動画。

その内のゲーム内使用楽曲(ハッチに関係するところ)のみ感想を書いておきます。

サントラに添付してあったライナーノーツの日本語訳もまあ、YouTubeに上げられている文章の翻訳だし引用して大丈夫……かな?

 

 

1.Prelude

弦楽四重奏のために作曲された『うみねこのなく頃に』のいくつかのサウンドトラックに触発された即興演奏です。

はじめは砂漠のシーンで使いたかったのですが、異邦人のテーマとこのテーマを書いたら、お蔵入りになってしまいました。

しかしこのテーマを気に入ってたので、メニューの前に待機画面を作って挿入しました。
前奏曲としてうまく収まったと思います。

タイトル画面BGM。

今曲を聞くと、幼い頃に時折行っていた博物館を思い出します。

県が50年前くらいに建てた博物館なので相応に古びていて、でも恐竜の化石や鉱物をメインとした地層関連の展示物はしっかりしていて。

全てを埋めた砂の上を悠久の風が渡っていく音がしていて、これが砂漠BGMでも全然良かったと思うけどな。


あと今作って原文がロシア語で、この作者も日本人ではないはずなんだけど、日本のアニメ文化にすごく詳しくてびっくりします。

「弦楽四重奏のために作曲された『うみねこのなく頃に』のいくつかのサウンドトラック」って『うみねこのなく頃に 奏』のことだよね。

オルガン小曲 第6億番 ハ短調

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『オルガン小曲 第6億番 ハ短調』あたりちょっと似てるかも?

 

 

 

2.Menu_theme_1

メニューのテーマとして何を考えたらいいのかわからなかったので、全音音階のものを即興で作って、メインテーマのリードを2つ挿入してみました。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の音楽みたいでした。

このように前衛的な即興は、『天使のたまご』の音楽に触発されたものです。

メニュー画面BGM。

ゼルダブレワイは未プレイなので何とも言えないんですが、押井守監督の『天使のたまご』はアマプラで配信されていた時に観たことがあります。

あれも青と白と黒の世界だったので、あの青を赤に反転させたら『q.u.q.』の世界になるのかもしれません。

影響を受けたと思われる劇中曲:菅野由弘『プレリュード』は水没しゆくあの世界の水に浸っていましたが、今曲もどことなく水、それも闇の中へ自由落下していく水滴のようなイメージを持ちます。

溜まることなく砂の乾きを潤すことなく、落ちていく汗のような涙のような。

 

 

 

3.Menu_theme_2

これもメニューの即興です。

前回よりちょっと素早く作れました。

メニュー画面を放置していると「Menu_theme1」に続いて流れる2。

1の寄る辺ない不安な単音とはまた違う、ゆったりとしたピアノのメロディーが優雅な安定感を感じさせるけど、でも中盤から少しだけ哀しみの色を帯びるところがお気に入り。

 

 

 

4.Main theme

最初に書いたテーマのひとつです。

長い間気に入らず、代わりに何か別のものを作曲したかったんです。

いくつかのバージョンを作り、最終的に最初のバージョンが最も適しているという結論に達しました。

このOP曲、大好き!

フルートソロの後から一気に色々な楽器が雪崩込んできて、華やかで土着的な民族音楽のようになっていくのが好きです。

青空の下を渡っていく涼風のような笛の音が爽やか。

52秒と1分にも満たない曲だけど、商業アニメのOPとして地上波に乗せても遜色ないくらいプロっぽい。

この曲に合わせたOPムービーの時点で勝ちを確信出来るくらいに良かったな。

 

 

 

5.Stranger theme

異邦人への複雑な感情をうまく伝えられるような、全体的に穏やかだけど少し不穏なテーマが必要でした。

その不安定さをよりよく伝えるために5/4拍子を使用しました。

奇妙なシンセサイザーがランダムに音を奏で、弦楽器が四分音符を奏でることで、ちょっと不穏な不条理さを伝えています。

異邦人の登場音がテーマに調和しているのが気に入ったので、異邦人のライトモチーフにすることにしました。

異邦人登場BGM。

怖いよ~~~……。

少し不穏というよりはかなり不気味。

でもこのライナーノーツはすごい勉強になる。

不安定さを演出したい時は5/4拍子を使うんだとか、その上で弦楽器が四分音符を奏でることで”ちょっと不穏な不条理”感になるんだなとか。


個人的にはこのランダムなシンセサイザーがかなり怖い。

何をしでかすか分からない存在が自分より近未来的な音をしていると、理解不能な加害の予感がするし実際そうだし!

異邦人の登場音も怖い。

ドゥルルンみたいな音と共にこの真っ黒で盲目な単眼が急に現れるの、もはや軽いジャンプスケアの域では。

 

 

 

6.Song of the forgotten cities

虚無や放棄を伝えるテーマが必要でした。

そこで、オーボエとピアノのためのミニマルなテーマを作りました。

この曲は、かつて誰かがそこに住んでいたけれど、いまは歌がどこにも流れていないように聞こえると思います。

「忘れ去られた街」のタイトルに相応しい街BGM。

サントラにはHQ(ハイクオリティ版)も収録されていて、HQ版の音楽ホール感漂うリッチな響きも素敵だけど、ゲーム版はゲーム版でまた味わいがある。

擦り切れかけたカセットテープから流れ続けるチープな響きが、吹きすさぶ風と混ざり合って放擲を描き出す。

このサントラ内でもかなり好きな曲の一つです。

 

 

 

7.Noclue Whatitwas

これは一番長く考えたテーマの音楽です。

最後に書いたテーマのひとつでした。

なにかマヌケでぎこちないものを書かないといけなかったんです。

ファゴットはぎこちなさを完璧に体現していると思います。

閃きを求め、任天堂のゲームのマヌケな曲のプレイリストをいろいろと聴きにいきました。


ネタバレ。

テーマの第2部では、フカシギ・ナナニカの本質のちょっとしたヒントに、異邦人のライトモチーフを少し変えて挿入することにしました。

「Noclue Whatitwas」=「No clue what it was」=「見当もつかない何か」≒「不可思議な何か」BGM。

初見時はギロやティンバレスといった愉快なパーカションに陽気さを感じるんだけど、途中で異邦人BGMのシンセサイザーが入ってることが分かると急に怖い

時計塔に登る時、この不思議ななにか(=異邦人)の手助けを受け入れると強制的にバットEDに入ることに気付かずにちょっと攻略手こずったし。

 

この不可思議ななにかは最初から3人目の使徒だったのか、それとも死んだ3人目の使徒のなりすましだったのか結局どっちなんだろう?

2人目の放浪の使徒が主人公が不可思議な何かをバカアヒル呼ばわりした時

にしても、「バカアヒル」ってなんだ……?」と不思議がっていたのでやっぱりなりすましの可能性の方が高いよね。

 

 

 

8.Corridors

廊下のテーマには、静謐でありながら、廃墟や境界の空間を連想させるものが必要でした。

これも即興演奏です。

陰鬱な雰囲気で有名な作曲家エリック・サティを参考に選びました。

ピアノのアタックを強め、音をよりぼやけさせるようにしました。

テイアの家の廊下(Corridors)BGM。

私はここを通る時の「廊下は芳しいモモの匂いがしました。なにかエキゾチックで、理解不能な、まさに金持ちのための匂い」という文章がすごく好き。

ゲームの冒頭でハッチがテイアにふざけて言った「あたしがくたばったら葬式お願いね、金持ちお嬢さん」が頭に残ってると、ここでこの家の廊下がテイアの家だと気付ける。

モモを金持ちの匂いと例えるセンス、またその金持ちの家を友人と結びつけるための伏線の仕込み方が上手。

テイアは冒頭でアップルパイを焼いていて、家は芳しいモモの匂いで満ちていて、普段からすごくいい香りのする女の子だったんだろうな。

ただその豊かさは彼女に何の幸福ももたらさなかったことを考えると気が重くなります。

 

 

 

9.Clock

また、(こんなに短くてシンプルなのに)かなりの長期間悪戦苦闘したテーマのひとつです。

崇高でありながら、ちょっと不思議でグロテスクなものが必要でした。(時計の描写もありつつ)

なにが必要なのか理解しようとバッハを聴いたのですが、いくら試してもうまくいきませんでした。


そこで、脚本を書いている間ずっと聴いていた、野見祐二の『four-sight』のOSTを思い出しました。

美しいサウンドトラックでした!

ゲームは忘れ去られとても古いですが、音楽は最高なんです!

自分のチャンネルで1曲アレンジしたことさえあります。


そこで時計のテーマを思い出しました。

聴いた後、必要なものがすぐにわかりました。

第一の使徒、スマート時計のBGM。

歪んだ秒針が刻む不協和音をずっと聞いていると悪酔いしてきそう。

ハッチがこの時計の前に立った時、「おじいさんの時計らしきもの」と表示されたのは童謡「大きな古時計」オマージュっぽよね。

あれも結局は死のお話だし。

 

しかしこの第一使徒のビジュアル、時計というよりは仏壇を想起させる。

ハイトーンのレモンイエローが仏具の金色みたいだからかも。

後ろの壁も異様に毒々しいんだよね。

特に左の渦は頭蓋骨の断面図のようにも丸まった胎児のようにも見える。

 

あと野見祐二っていう音楽家の方、名前は初耳だったので調べたらジブリの『耳をすませば』『猫の恩返し』を手掛けたすごい人かつ、アニメ『ぼくらの』の劇伴担当者でひっくり返りました。

ぼくらのの人なの……そう……。

 

 

 

10.Nausea

非常に短いテーマで、強烈な不安と吐き気の感覚を伝えようとしました。

短い不協和音と急速に繰り返されるパターンで、望みの結果を達成できそうでした。

災厄の花との邂逅シーン。

タイトル「Nausea(吐き気)」の名に違わない曲でびっくりします。

脳の中枢神経にがつんがつん響いて胃を急速に締め上げていくシンセ、生理反応を音だけで引き起こしてみせるのは本当にすごいことだよ。

方向性は違えど、今作における名曲の一つだと思います。

 

 

 

11.The Maze

このテーマはどうやって作ったかあまりよく覚えていませんが、かなり素早く書きました。

このような雰囲気のサウンドトラックを書くのは、私にとってそれほど難しくないのだと思います。

公園の迷路BGM。

短調のピアノのメロディーは迷路の通路の影に不安さを落とすけど、遠くで響くフルートの音は上に開けた空の青さを歌う。

明るい日差しが顔に当たり、目を手で覆いました」とある通りに開放感は感じるんですよね。

でもずっと聞いてると心細さで泣きそうになるくらには怖いよ!

 

 


12.Maze apostle intro

ただのイントロです。

ラフマニノフに触発されたはずなんですが、覚えてません。

迷路の使徒登場シーンBGM。

クリックして読み進めていれば1秒あるかないかのシーンに、ちゃんと20秒のメロディが用意してあってリッチ。

パイプオルガンの仰々しい響きも好きだな。

……なんかこの迷路の使徒の方が時計の使徒っぽくない?

 

 


13.Maze Apostle

この使徒のテーマを考えるのに、ずいぶん時間がかかりました。

コミカルで楽しくて、でもミステリアスでちょっと荘厳なものが必要だったんです。

何日もテーマについて悪戦苦闘したのですが、何も思い浮かびませんでした。

そして、簡単な部分(作曲)はそう簡単ではないのだと思いました……


そんな時、編曲家のHesangasongの『日常』(大好きな作曲家の野見祐二作)の
サウンドトラックのアレンジ、より具体的には「Helvetica Standard」の章の歌に出会いました。

「これだ!」と思い、1時間もしないうちにこのテーマが出来上がりました。

迷路の使徒が馬脚を現した時のコミカルなワルツ。

ほわほわと浮遊するシンセの音が迷路の使徒のビジュアルとも合ってる。

 

ライナーノーツで触れられていたHesangasong・アレンジの「Helvetica Standard」ってきっとこのこと↓だよね?

確かに聞いてみると迷路の使徒のBGMと雰囲気が似てる気がする。

雲のように霧のように、こまかな水の粒が集まって何か掴めない浮遊物の形を取っているように潤んだ響き。

 

 

 

14.Choice

もともと時計のテーマでした。

でも、なにか大きな決断をするように聞こえると結局考えました。

ということで、魔法の言葉を選ぶときのテーマとしました。

3択の選択肢を選ぶ時のBGM。

神聖で厳かで、機械的な電子音。

言われてみると確かに今曲のメロディーは時計の秒針に似てる。

規則正しいけれど決してこちらを待ってはくれない時の音。

中盤から後半にかけて細かくピアノや打楽器の音が入るのも、考え込む主人公の決断を急かす周囲の景色めいていて面白いです。

 

 

 

15.Nostalgia

キャラクターの過去に関するシーンに合う、センチメンタルなテーマが必要でした。

当時、アニメ『焼きたて!!ジャぱん』を見ていて、「ビター・スウィート・セレナーデ」のテーマがとても気に入りました。

弦楽四重奏とヴァイオリンのソロで、同じようなことをやりたかったんです。

弦楽四重奏の作曲は初めてのことだったので、かなり大変でした。

ちょっと好みと違う仕上がりになってしまいましたが、全体としてはまあ良かったかなと思っています。

ハッチとテイアの回想シーンBGM。

まず第一に『焼きたて!!ジャぱん』の名前が出てきたことにびっくりしました。

私はアニメを夕方リアルタイムで観てたしサンデーで連載されていた原作も読んでたのですごく懐かしい。

RYTHEM『ホウキ雲』のOPとかSOUL'd OUT『To All Tha Dreamers』とか主題歌の方ばかり覚えていたんですけど、「そういえば劇伴担当って誰だったんだろう?」と今回調べたら岩崎琢で二重に驚き。

『今、そこにいる僕』というアニメのBGMで名前を知って、すごく美しい弦の旋律を作る人だったので印象深いです。

確かに今曲のストリングスが奏でる、甘くて、ノスタルジーで、もう戻れない悲しみを言葉にすると本当に「ビター・スウィート・セレナーデ」かも。

 

ただこの直後に災厄の花が見せるテイアの幻を、「Nausea」と共にぶっ込んでくるのは心臓に悪い!

皆殺しにするだけだよ。皆殺しにして。そして自殺して。また一緒になれるよ。さあ!信じてるよ、ハッチ!皆殺しにしてよ。皆殺しにして自殺して。殺して、ハッチ。皆殺しにして。

えーーーーん、怖いよ……。

ただこの災厄の花の幻、ハッチの罪悪感を増幅させてこうなってるのか、そもそも花自体が悪意を持って殺意を提示しているのかどっちなんだろう。

皆殺しにして。そして自殺して」なんて、まさに滅びの言葉だよね。

 

 


16.Hacchi

ちょっとした希望や孤独、軽い悲しみに満ちたものを書かなければなりませんでした。

久石譲(多くのジブリ作品の作曲家)の精神を受け継いだものを書こうとしました。

オーボエは孤独感を伝えるのにぴったりだと考え、ソロ楽器として使いました。

ハッチとテイアの回想シーン。

マイナー調の哀しい曲でありながらどこか温かさを感じる木管楽器の音が根底に流れており、その温度こそが、ハッチがテイアから貰っていた温もりなのだと思います。

その親友は死んじゃって、その親友のせいで世界は歪んで。

それでもなお自分の内に残るテイアの熱を原動力として彼女は動いてゆく。

ハッチがテイアに向ける友情の確かさを内包している曲で好き。

 

 

 

17.Quid pro quo

同じ異邦人のテーマでも、より威嚇的なものになっています。

ここでは鐘の音をより強調し、不気味で不穏な雰囲気を生み出しています。

「ママ」「命」「自我」というワードを集めると発生する「素晴らしい世界!」EDにおいての異邦人再登場BGM。

初登場BGM「Stranger theme」をより尖らせた音達で、この先絶対にろくなことが起こらないのを告げにきた予言のよう。

断続的に鳴り続ける鍵盤の和音は早鐘を打つハッチの心臓のようでもあり、同時に「Quid pro quo(恩には恩を)」と見返りを要求する異邦人の強烈な眼差しでもある。

甲高い鐘の金属音はハッチへの警鐘、もしくは期待に高鳴る異邦人の異邦人なりの心音かも。

 

 

 

18.Crisis

これまでのテーマでは「異邦人」の不穏なライトモチーフは、たまにしか出てきませんでした。

ここではテーマ全体が「異邦人」のみで構成されています。

また、緊張感をより伝えるために、テンポも徐々に上げました。

異邦人によるハッチ殺害シーンBGM。

本当に地獄みたいな音が鳴ってますね……。

その手に掴まれたが最後、逃れられるすべがない地割れみたいな音楽。

 

ハッチの心臓を抉り出しながら異邦人の言うセリフも支離滅裂でかなり怖いよ。

すみません、ハッチ!ウソつきました!またウソつきました!すみません!すみません!抱きしめて、蹴るのをやめて、すべてすぐ終わりますから。手を取って、ハッチ!大丈夫ですよ、ハッチ!大丈夫です!

何が、どう大丈夫なんだよ……。

謝りながらでも殺す手は止めないこの感じ、こちらが「下」でありあちらが「上」なのだと強制的に分からせてくる感じが嫌すぎ。

新世界でハッチを産み出して可愛がるのもまた、ペット扱いの一環に過ぎないと思うんだよねえ。

 

 

 

19.Yamamoto

いくつかの「日常系ビジュアルノベル」風に即興で作っただけです。

「わかんない」「無」「エビ」というワードを集めると発生する「ヨッパライ」EDのBGM。

なんかハッチがエビになって、そのエビは少年漫画ジュウンプで連載を目指しているけど上手く行かない漫画家で、居酒屋で酔って愚痴るというEDなんだけど……いや、本当に何?

曲自体はアコギにしか出せないような夕焼けの色がするメロディーで好きだけど、でも本当に何?


飲んだくれたヒゲなし山本エビにエビガールが言ったのって十中八九『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』のことで、こっちはちゃんと流行ったシュルレアリスム・ノベルゲームで笑いました。

 

 

 

20.Ningen ni naritai

はじめは自分のチャンネルで公開したい普通のボカロ曲のデモだったんですが、エンディングに使ったら面白いんじゃないかと思いました。

日本語で歌詞を書いてくれたCaseybara(Casey)にとても感謝しています!

もともとは歌愛ユキだけで歌う予定でしたが、可不ならより感情を込められると思ったので、2人で一緒に歌うことにしました。

面白いことに、この曲もメロディーの変更は最小限にして、すべて即興で作ったものです。

「絶望」「空」「人間」というワードを集めて空を撃つと発生する「じゃあね!」EDのED曲。

テーマソングまで流れるんだし、これがトゥルーエンド扱いでいいはず。


ストーリーで見ればハッチは本懐を遂げた訳だし、その顔に浮かぶ笑顔も明るいのに歌詞がま~~~暗い!

燃え上がる夢をみる そういえば 爛れる夢もみる

私以外の誰かになりたいな 救われたいな 人間になりたいな

っていうフレーズはつまり、これまでのハッチの心情ということ?

燃え上がる夢を見て、爛れる夢を見て、私以外の誰かになりたくて、人間になりたい女の子だったってこと?

 

このEDムービーで初めてハッチの全身像が映るんだけど(今まではずっと顔グラのみ)衣服は白黒のボーダーで、その両手両足には枷がはめられていて心底驚きました。

ずっとこんな、囚人みたいな格好を……。

彼女の勝ち気な言動からは、この物理的にも精神的にも重い立ち姿は想定出来なかったよ。

プレイヤーの想像以上にずっと彼女は一人で頑張ってきたのかもしれない。

 


明るいようで暗くて、暗いようでいて明るい今曲は『q.u.q.』という物語の締めに相応しいと思います。