2002年にシルキーズから発売された18禁男性向けノベル『肢体を洗う』をプレイしました。
FANZA GAMES 独占配信かつ、プレイ時間は約10時間でED数は20。
「死体洗い」という仕事を通じ「日常から非日常に放り込まれた主人公の精神的な変遷」を描く、という触れ込みに惹かれて購入してみたんですが、個人的にはめちゃくちゃヒット。
ストーリーの面でもビジュアル面でも好きなところはたくさんあって、まずは原画:さめだ小判による絵の良さから!
今作の攻略対象者は看護師:御堂悠紀
後輩看護師:佐伯真魚
事務員:真田美和子
病院の副委員長:露崎千草の4人。
みんなめっちゃ美人さんじゃない!?
主人公の仕事場が病院の地下にあることの対比として、(副院長を除く)ヒロイン達とのイベントは日差しの当たる屋外でお弁当を食べながらという風に設定されているんだと思います。
激ストレスのかかる仕事と仕事の合間に、こういう風に安らいだ時間があると無いとじゃ全然違うよね。
穏やかな陽の光と共に微笑む女性の柔らかさは仕事場の空気とは正反対で、そのギャップに救われるのも分かるよ。
主人公の仕事場なんてこんなんですからね!?
もうこの部屋に来るだけで息が詰まる……。
詳しくはネタバレ感想で語るけど、死体の沈むホルマリンプールが怖いんじゃなくて、自分の無能さをここで突き付けられるのがきついんですよ。
他の背景の絵も緻密で好印象。
昼間、患者と事務員とでざわめくロビーの騒がしさと
夜勤の看護師2人が静かに働くナースステーションの感じ。
給茶機や卓上の調味料まで書き込まれてる病院食堂や
清潔な診察室の精緻さもすごい。
特に夜間の病棟廊下のライティングには唸りました。
この天井、壁、廊下でそれぞれ違った色合いを見せる緑青色がすごすぎる。
光が漏れてるところはナースセンターか当直室なんだろうし、常に誰かが医療のために起きている施設の夜は闇一色では決してないという姿勢が誠実で好きです。
死体洗い場手前の更衣室も、奥の薄汚れた壁にリアリティーがあるんですよね。
ちゃんと手洗い場付近の方が水の飛び散りで汚くなってるの、本当によくしっかり観察して描かれている。
これをエロゲの背景だけにするのは勿体なくないか!?
あと今作はOVA3巻の18禁アニメにまでなってまして。
私はゲオの宅配レンタルで借りて観たんだけど、DMMでもストリーミングレンタル出来るので視聴のハードルは結構低いはず。
アニメ版だと割と初な主人公が
↓ こうなって
↓ こうなるまでを
CV.三木眞一郎のフルスロット演技で楽しめるので、三木眞一郎ボイス好きの女オタクは逆に観るべきかも?(大嘘)
少なくとも全年齢や女性向け作品では聞けない声の震えをしていたのは確かです。
以下、ゲーム本編&アニメ版『肢体を洗う THE ANIMATION』のネタバレ感想!
ネタバレ感想
今作の何よりの魅力は、やっぱり前半の「肢体洗い」の一言に尽きると思います。
この仕事に任命した副院長や先輩の鏑木からは再三「献体してくださった本人や遺族の意志を尊重しろ」って言われるし
主人公だって「怖がってばかりいては、献体してくれた人に申し訳が立たない」と思うぐらいにはそれを分かってる。
だからこそ、初日に自分が遺体の肩を外してしまった瞬間のパニック状態に私まで引きずり込まれました。
背筋に悪寒が走る。
ガチガチと歯が鳴って、頭の中がその音でいっぱいになる。
死体を傷つけた……その事実が凶器となって、心に突き刺さる。自分が嫌な思いをしないために、適当に作業をして……その結果がこれ。
もう、どうしたらいいのか分からない。
罪悪感が頭を満たし、まともに考えられない。
作業を続けるとか早く終わらせるとか、そんなこともうどうだっていい。懺悔したい……許してもらえなくてもいい……ただ誰かに謝りたい。
肩の外れた音、手応え、伸びた腕……どれも頭から離れない。
全てのイメージが僕を責め苛む。
この「罪悪感が頭を満たし、まともに考えられない」という感覚、私も仕事でミスをした時に同じ感覚になるけど、この時の主人公は私のそれなんかより遥かに遥かにきつかったはず。
目の前に突きつけられた、死体という現実。
周りには誰もいない。
逃げ道などどこにもない。ここには僕という人間と男性の死体、その二つしか存在しない。
という状況の中で100%自分だけが悪いんだもん、こんなの耐えられないでしょ。
そんな状態の中でも必死に先輩に連絡して来てもらうんだけど、その時の先輩の態度がこれまた逆にきついというか。
治したと言ったんだ。あのくらいならすぐに治る。
これ以上気にする必要はない。とにかくもう肩は外れてない。
失敗した経験は教訓として、次に活かせ。
私「ここから続行ですか!?」
怒鳴って叩き出されるのを私も主人公も期待してたのに、ちゃちゃっと治されて励まされて出て行かれて半泣きだよ。
この後、「今の僕にできるのは、鏑木さんと同じくらいきれいに死体を洗い上げることだけ。それ以外に、この罪悪感を消す術はない」と仕事をやり遂げて帰った主人公が立派すぎる。
家に帰った後も、反省しまくって必死に気持ちを奮い立たせようとしてるのが健気。
今日が2回目の死体洗い。
死体に触れるのも2回目……今日また失敗したら今度こそ言い訳はできない。これから先、たとえ慣れてきたとしても、手抜きは一切しない。
もしも手を抜いて同じように傷つけてしまったら、僕は一生立ち直れそうにない。……行こう。
とまで誓ってるのに。誓ったのに!
直後にまた遺体の傷を開くミスした瞬間、心が折れる音がしたね。
私が今作を買った時は「病院のホラーものかあ、面白いといいなあ」って感じだったのに、こんなにも「仕事が無能」という方向で心をへし折られるとは思ってもみませんでした。
自分が今日の朝に立てた「ミスをしない」という誓いを、今の自分がもう裏切っているのがきつい。
私ならここで泣き喚いて即バックレるのを、主人公は「頭よりも身体の方が、仕事から逃れられないことを知っている」と翌日もまた翌々日の日も仕事に向かうのが心底偉いね。
でも実際の医療従事者や救命に携わる人は今作よりもっと遥かに凄惨な死体を目の当たりにしてる訳で。
今作をプレイしていると、そういった方達への尊敬の念が改めて湧きます。
ヒロイン達との各EDについて
まず褒めたいのは各ED後に反省会&アドバイスがあるところ!
『タナトスの恋』でもそうだったけど、私は反省会があるエロゲは一発で好きになってしまうので……。
御堂悠紀ED
まずはメインルートの御堂さんルートについて。
最初はそっけなかった彼女の態度が急に軟化した理由はいまいちよく分からないんだけど、その後はずっと白衣の天使という王道を貫いてくれたのが好印象。
幻聴に苛まれる主人公の頭を撫でてくれた時は、その聖母っぷりにやられました。
みんな幻ですよ。あなたはきっと疲れてるんです。
心も身体も……あのお仕事のせいで……。
ここで主人公もちゃんと「御堂さんは、笑ってなどいなかった。多分誰も、僕のことを笑っていない。僕自身を除いて……」と正気に戻れたのがよかったね。
苦しんでいる人を見捨てないという看護師らしい彼女の態度が、今作のまともさを担っていた部分も大きかったはず。
後述する狂気ルートでは御堂さんを初手で殺すからあんなことになるわけだし……。
ついでにここで副院長のことも語るけど、彼女と副院長は姉妹関係にあったんですよね。
副院長の方は自分の妹を最初の実験台にしたり割とやりたい放題だったのに、御堂さんは純粋な姉妹愛でずっと彼女のことを想っていて、ここでようやくその想いが報われて結構感動しました。
というか、ここ以外でそのまともな愛が副院長に通じる瞬間なんて一瞬たりともなかった気がする。
副院長が唯一、院長の死を受け止められる道だと考えると、彼女にとっても良かった……のかなあ?
ただ一枚絵としては、いわゆるノーマルEDの描き込みが一番好きです。
主人公が病院から去った後も御堂さんはずっと副院長によって地下に監禁されてて、主人公はその事実を彼女が病院から救出されたニュースで知るというED。
モブの躍動感すごくない!?
警備員の「どけっ!邪魔だっ!」っていう怒鳴り声とか、それに「御堂さん!この件について一言!一言お願いします!」と食らいつく女性リポーターの声とか、カメラのシャッター音とフラッシュが入り混じる現場の喧騒が音もなしに聞こえてくるみたい。
その騒がしさに対して、ニュースを読み上げるスタジオはしらーっと静かなのが、女性アナウンサーの真面目くさった表情から伝わってくる。
というかよく見ると現場の人達の個性もすごいな。アフロサングラスカメラマンとか何?
ただ左の若い兄ちゃんは警備員に押し退けられてシャッターチャンスを逃し続けてるのに対し、アフロサングラスカメラマンはちゃんと撮れているので、ベテランの風格があるのは確か。
そして当の本人である御堂さんはだけは唯一、心ここにあらずという感じでどこか遠くを見つめてるんだよね。
彼女が今何を考えているのかというと、やっぱりそれは逮捕されてしまったお姉ちゃんのことに他ならないのだと思います。
うーん、見れば見るほどすごい絵。
佐伯真魚ED
真魚ちゃんEDについてはグッドEDとバッドEDでセリフが呼応している仕掛けがめちゃくちゃ好きです。
バッドEDは、殺されてホルマリンプールに浮かべられた真魚ちゃんの死体を主人公が持ち帰り、偽りの同棲生活を送るという流れ。
この画角がホラーしてて良いんだよなあ~~~。
主人公は光の溢れるキッチンで楽しそうにしてるのに対して、真魚ちゃんは電気の付いていない畳敷きの和室に直布団で寝かされており、その暗さは容易に死を連想させる。
で、真魚ちゃんが生存しているグッドEDの方では、主人公が死体の真魚ちゃんにかけていた世話焼き台詞を、そのまま彼女が主人公に言っているんだよね。
私はバッドEDの方を先に見たので、グッドEDの明るさが余計に沁みました。
でもな~~~、個人的には死体相手に主夫やってる主人公がめちゃくちゃ可愛い。
実際可愛いでしょ!
エプロンしながら「ほらぁ、起きろよぉ!日曜だからって、いつまでも寝てちゃダメだろ?」って言ってくれる男なんて!
真田美和子ED
美和子さんEDはグッドEDの幸せ溢れるシーンに、平凡だけどかけがえのない家族愛を感じて微笑ましかったです。
娘に起こされるなんて幸せ者だねえ。
ただこの家族の始まりなのはデキ婚なのが逆にエロい。
彼女は……僕の妻となり、僕の娘の母となった。
……いや、ちょっと違うか。『僕の娘の母になり、僕の妻となった。』
これが正しい順番。
私が作中で唯一「いや、エロいな!?」と思ったのはここかも。
プロポーズする前に孕ませてるのが男の性欲の強さを感じさせるし、何より寝起きで髪をかき上げつつも伏せられている主人公の瞳がエロい。
ちょっとロン毛っぽいふわふわ髪なのも個人的に超ツボです。
狂気ED
死体洗いのストレスに耐えきれなかった主人公が幻覚に呑まれ、御堂さんを絞め殺すところから始まるこの狂気ルート。
主人公の恐怖がこれでもかというぐらいに描かれていて、たぶん一番人気があるのもこのルートなんじゃないかな。
主人公が認識する仕事場もこんな有様だし。
もちろんホラーノベルゲー好きとしては楽しかったし面白かったんだけど、でもこれぐらいの恐怖描写なら正直、他作品でも見えるんだよね。
前半、必死になって死体洗いをこなす主人公の葛藤の方がよっぽど私にとっては目新しくて、この作品にしかないものを感じました。
やっぱり私は遺体を傷つけた瞬間に叩きつけられた「全てのイメージが僕を責め苛む」という強烈な自責感情に、一番価値を見出しているんですよ。
文字を読んでいるだけなのに、あそこまで罪悪感と焦りで脳が満たされていく感覚、滅多に味わえるものではないはずです。
……いや、でも前半がすごい良かっただけで、こっちのルートもかなり好きだよ!?
僕はおかしくなっちゃったんだ。
遺体としゃべるなんて普通じゃない。
狂っちゃったんだ。
と
僕はもうおかしくない。
僕の頭は壊れていない。
僕の心は砕けていない……。
をジェットコースターのように繰り返す主人公に
あのなぁ……いいか、酔ってる奴に限って自分は酔ってないって言うんだ。
その理論からすると、大丈夫って言ってるお前は、大丈夫じゃないんだよ。
って煽ってしっかり殺される北先生とか。
仕事場から出られなくなって発狂する時の文章もすごく良い!
この病院には誰もいないのかもしれない。
この世界には何も存在しないのかもしれない。
茫漠とした暗黒の中、冷たく鉄扉に閉ざされたこの空間だけが漂流している。
その世界には何もない。
僕と、あの遺体以外は……。
やっぱりこのゲームは文章が一番良いんだよなあ。
結局最後、錯乱した主人公は無差別殺傷事件を起こして刑務所に収監されるという流れなんだけど、その時の表情が一番ホラーしてるかも。
もう一枚別にある主人公オンリーの絵では、かなり可愛い顔立ちしてたので勿体ない。
あと報道された被害者の死亡リストに鏑木先輩の名前まであって笑いました。
鏑木パイセン殺せたんか、ワレぇ!
アニメ版について
『肢体を洗う THE ANIMATION』についてはこう……すごかった(?)ですね。
原作の狂気ルートをなぞりながらも、頭のおかしい場面しか出てこない。
特に美和子さんの胸部を切除すると、そこはお弁当の具材と精液に満ちていて、真魚ちゃんがそれをつまんで食べるというシーンには度肝を抜かれました。
あれで興奮できる人がこの世にいるのか?
まあゲーム既プレイ済の身としては気になるところもあり、大いに笑えるところありって感じかな。
ツッコミたいところは特に2つあって、まず1つ目が鏑木先輩。
鏑木パイセン、どうしちゃったんすか!?
ダイヤ柄のバスローブ羽織って、蝶の標本が飾られた部屋でレコード流してるこの男、独特な美的センスに改変され過ぎてて笑っちゃうんだ。
原作のおまけシナリオでは北先生に貞操観念の強さを語っていたのに、こっちでは複数の女性と関係を持ち、かつ副院長と共犯である面が強く押し出されてる。
確かに考えてみれば鏑木先輩は副院長のやってることに協力はしてるんだけど、ゲーム本編ではそんな印象全然持たせなかったからなあ。
もう1つは地下にあるサイバー監視部屋の存在。
ここ、本当に病院か!?
本当にここら辺の展開は意味が分からない、原作プレイ済であればあるほど分からない。
監視カメラのチェック部屋があるのは百歩譲って理解出来るんだけど、何でそこに御堂さんが入って来て興奮しだすのか、もう私には何も分かりません……。
ただこのアニメには声優の園崎未恵が歌う『樹海』というエンディング曲があって、それが流れると「何かまあ、良かった気がする……」って感じの雰囲気にはなるんだよね。
君を探して 君を探して 叫ぶけれど
届くわけない 会えるわけない 暗い樹海
「ダウナーだけど仄かな温もりのある不思議な曲だな~」と聞いていたら、作編曲:坂本昌之が表示された瞬間、椅子から転げ落ちるかと思いました。
初期のSee-Sawや鬼束ちひろの神アルバム『DOROTHY』をプロデュースされた方だもん、そりゃ名前ぐらい覚えてるって!
この曲がサブスク解禁&配信されるようになったのも、2023年8月4日からだったそうなので、運命感じちゃうな。