復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

友人と夜道を歩くシネマティック短編フリーゲーム『An ordinary day』感想

制作:MOSHIzo’s CINEMAさんの『An ordinary day』というブラウザ・フリーゲームをプレイしました。

プレイ時間は10分程度で、ED数は1。

 

クリエイターのプロフィール欄に「映画のように映像を眺めるだけで楽しめるような短編映画風ゲームを制作しています」とあり、そう言い切れるだけの絵力がある作品で大満足です。

このゲームは本当に夜の絵が良い!

良すぎる!!

月明かりの下での葉や花びら、土の色がアンティーク調のスモーキーカラーで表現されていてすごくお洒落。

塗りも基本的には平面的で均一だけど、月光が照らすものの縁は細かく描かれていて、そこがこの夜にきらめきをもたらしてる。

友人と連れ立って歩く、ただそれだけの夜に。

 

今作の登場人物は3人。

黒山羊のイズに旅人気質のシーエ、そして彼ら二人の共通の友人であるエルド

(上の写真でいうと、左の女の子っぽいのがエルド、真ん中がイズ、右の旅人エルフっぽいのがシーエ)

 

このゲームは久しぶりに旅から帰ってきたシーエがイズを誘ってエルドに会いに行く、ただそれだけのお話ではあるんだよね。

連れ立って海沿いの道を歩いたり

花畑の中を通ったりして、

(この場面の絵、良すぎるのでもう一回貼る)

エルザが待つ山を登る。

ドット絵の雰囲気と合わせたであろう、ファミコン風チップチューンのBGMが流れるこの夜は、優しくて懐かしくて、どこか空恐ろしい。

それを明かす終盤のワンシーンには息を呑むものがありました。

 

という訳で以下、彼ら2人が辿り着いた場所への言及があるのでネタバレ注意。

スマホのブラウザから10分で出来る短編ものだし、音の演出も素晴らしく良かったので、ぜひクリアしてから読んでみてほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

2人が辿り着いた待ち合わせの場所で、シーエが笑顔で言葉を交わすのは十字架の墓。

誰のかと言ったら、それはもちろん彼ら2人の友達、エルドの。

お、おわぁ……。(絶句)

ここでBGMが止まり、風の音のSEだけになるのが恐ろしい。

あの穏やかで優しい夢のようなメロディーは、文字通りシーエが目を開きながら見ている夢のように思えて。

 

あのときからシーエは、現実ではないどこかで生きているんだと僕は思った。

でも個人的には、現実を自分の認識で上書きしていく彼の姿を強いなとも思うよ。

思い込めば全ては一緒だから。

あるものはなくてないものはある。

そういう風に生きていけるのは、彼の魂が持つ根本的な強さのように映る。

 

でも主人公であるイドの方はそうじゃないんだよね。

ゲーム冒頭の彼の目覚めがひどく憂鬱そうだった理由が今なら分かるよ。

僕はずっと繰り返してる。

エルドが生きて僕らと会話してるんだと嘘をつく。

今日もなんでもない普通の日々になるように

ここで『An ordinary day(平凡な1日)』のタイトル回収がされて痺れました。

シーエに付き合って、シーエを騙すことになる毎日がまた始まるのだと思うと、そりゃこんな顔にもなるよね。

 

そしてエンドカードで彼ら3人が真に幸福だった日々が映るのがやるせなくて、同時に大好き。

真昼の陽光の下で大笑い出来るような瞬間が、もうこの先の2人に訪れることはないのが分かるから。

 

あと何気にマルマンのスケッチブックが写ってるのが微笑ましかったです。

人間世界の文明が遥か遠い昔のことになっても、マルマンだけは生き残ってるのかも?