復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

ジュール・ヴェルヌに捧ぐ海洋ADV『Verne: The Shape of Fantasy』感想

steamにて『Verne: The Shape of Fantasy』というドット絵海洋ADVをプレイしました。

ED数は1でプレイ時間は3時間。


『海底二万里』を執筆した19世紀フランスのSF小説家:ジュール・ヴェルヌとなり、彼が作り出した海底世界を冒険していくという、設定からしてなかなか面白いゲームでした!

 

特筆すべきはやっぱりドット絵で描かれた巨大ノーチラス号の船内。

という訳で船内デザインの大本となったであろう1954年に撮られたディズニー映画『海底二万里』と比較してご紹介。

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円形窓やノーチラス号のマークデザイン、室内のインテリアはかなり映画と一緒。



舷窓のカーテンと言うかシャッター?の開け方まで再現してて細かい。


 

ゲームで「彼が演奏中に見せる暴力性は、狂気が彼を覆っていることをうかがわせた」と言わしめたネモ船長のパイプオルガン演奏シーンも映画にちゃんとある。


映画のネモ船長もちゃんと狂ったように弾いていて感動するんだけど、こんな演奏を逃げ場のない潜水艦で聞かされるの嫌だな。

 

船の外観も形自体はほぼ一緒。


……ではあるけど、ゲームの方では船の先頭にタコの意匠がされてるのが大きな違いかも?

これ、映画で戦ったのは大王イカだったんだけど原作は巨大タコで、原作の方を優先したんだと思う。

 

ただ全く違うのが潜水艦自体の大きさ。

映画では一部屋一部屋がぎゅっと密度のあるこじんまりした空間だったし

実際パリのディズニーランドにあるノーチラス号の設計図も2階建て+ブリッジと小さめ。

(引用:【パリ】ネモ船長のこだわりが垣間見える潜水艦 ” ノーチラス号 ”


対する『Verne: The Shape of Fantasy』のノーチラス号はこう!

どーんと11階建て!

豪華客船レベルの潜水艦が海に潜っているのかと思うと夢がありますね。

まあそのおかげで船内で迷いまくるはめになったけども…。

 

またノーチラス号だけでなく、自然や青空、海底遺跡のドット絵も高クオリティ。

特に好きなのはタイトル画面で海底に沈む女神:プラセイアの像。

一番初めのスタート画面からして傑作の片鱗を感じさせる絵力があって良き。

 

 

ゲームシステムについて

今作の鍵となるのは主人公だけが使えるIMAG:アトランティス現実改変装置

文字通り現実を書き換えることが出来る炎を使って、敵の野望を阻止し海底遺跡の謎を追っていく。

IMAGのチュートリアルのラストに「それでは、よい書き換えを!」という文があるのが心憎いね。

こんなのオタクなら誰もが好きな文面でしょ!

 

また他にもパズル要素が多々あって、その画面デザインも好き。

不時着した無人島で「クローブヒッチ」の縛り方を学んだり

秘密基地のアクセスカードの穴を開けたり塞いだりして、偽造したり。

こういう一枚絵デザインの良さも憧れるなあ。

 

 

溢れるジュール・ヴェルヌへの作品愛

今作は直接的なモチーフとなっている『海底二万里』だけでなく、ジュール・ヴェルヌの他著作についても収集要素として登場する。

例えば無人島にあるアフリカゾウの石像を調べると『気球に乗って五週間』というカードが手に入り、

そのカードにはヴェルヌが1863年に出版した同名作品のあらすじとその評価がみっしりと書かれている。

小説の中で最も有名な一節は、像が地球を牽引して「月の山脈」と呼ばれる山脈を越える様子」だからアフリカゾウの石像がゲーム中にぽつんと置かれているんだと思う。

 

他にも海底遺跡で藻に覆われている壁画を調べると「何かの物体が月へ?向かっているようだ…」のメッセージが表示され

ヴェルヌが1865年に出版した『月世界旅行』の解説カードが手に入る。

 

こんな感じで彼の著書に関する収集要素が全部で10個もあるのが今作のすごいところ。

ヴェルヌに心底心酔していなきゃこんな愛に溢れた文章書けないし、そもそもこんなゲーム作らないよ。

 

ただこの収集品のコンプリートはかなり大変だった!

今作は全てのセーブがオートセーブかつチャプター選択がないために、一個でも取りこぼした瞬間に周回が確定するから。

実際にsteamの実績見ても、ストーリークリア率が26%に対して、収集要素コンプ率は2.5%まで一気に下がる。

現に私だって3周したもん!

心底面倒だったけれど、でも私はこの3時間のADVを3周出来るくらいには好きでした。

 

 

ストーリーについて

今回はネタバレ感想を書くつもりがないので簡単に言うと、今作ってやっぱり「ヴェルヌの想像力」を巡る話なんだと思う。

その想像力の源にフォボスとプレセイア、アトランティスの神話的双子の兄妹を絡めてきたところが面白かったな。

妹のプラセイアは人々の好奇心や創造性を刺激する存在であるのに対し、兄であるフォボスは恐怖や破壊的な想像力を刺激する。

その兄妹の均衡が崩れた時、ヴェルヌの身に降りかかるものとは一体……みたいな。

 

そうして迎えたエンドロールで、一番最初に実際のヴェルヌのドット絵画像が映った時は思わず笑っちゃったよ。

本当に大好きなんだね……。