復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

列車の中をひたすら進むダウナー系短編RPG『幻想列車アポトーシス』感想

時雨屋(敬称略)制作、『幻想列車アポトーシス』というフリーゲームをプレイしました。

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列車の中をひたすら進むゲームブック形式短編RPG

気がつくと、あなたは列車の中にいた。
列車の中には誰もいなく、窓の外は見えない…。
列車はどこかを走っている。

引用:幻想列車アポトーシス


プレイ時間は1時間30分程度で、ED数は1。
気付いたらいた列車の最後尾から、先頭車両を目指して前に進んでいく短編RPGです。

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レベル上げは、メニューコマンドで「座席に座る」を選択すると、そこから「影」と呼ばれる敵が出現し戦闘になるという流れ。

 で、この戦闘が開始する前に数行の詩が流れるんですが、そのダウナー系ポエムがめっっちゃ良い!

とある夜中に目が覚めて じっと天井を見て
さっきまでみていた夢を思い出して

ここにはいない誰かを思い出して
いつかは会える誰かを思い出して

あなたは最古の記憶を覚えていますか。
あなたがこの世に生れ落ちて、
一番初めの記憶は何ですか。

私の最古の記憶は葬式です。
彼女は静かに死んでいました。

人間は、人生の三分の一を夢の中で過ごす。
時が流れて行くですって?

いいえ、違います。時はそこにとどまっていて、
ああ、私たちが流れていくのです。

水槽の魚は、
何故あんなにも死んだ目をしているのですか。
何故あんなにも弱々しく動き回るのですか。

どうしてその命を終えた後も、同じ顔をしているのですか。

血のにおいがするのです。
激しい血のにおいがするのです。
私は怪我なんかしていないのに。

血の味がするのです。
冷たい血の味がするのです。
私は怪我なんかしていないのに。

死は女性である。
彼女は、いつも私のそばに立っている。

私はいつも彼女を忘れている。
でもいつも、彼女は私のそばに立っている。

私は死ぬのが怖いのです。恐ろしいのです。
死んだ後も恐ろしいのです。
人は死んだらどこに行くのでしょう。

もしも天国と言うものがあったのならば。
もしも地獄と言うものがあったのならば。

夜ごと朝ごと みじめに生まれつく人あり
朝ごと夜ごと 幸せとよろこびに生まれつく人あり

幸せとよろこびに生まれつく人あり
終わりなき夜に生まれつく人もあり

私は彼女を思い出す。
忘れるたびに思い出す。

もう二度と会えない彼女の夢を見る。
明日。今夜。そして昨日

15~20種類ぐらいあるうちの一つがランダムで表示されるんですが、もう全部好きです。
「こんなの、絶対当たるガチャじゃん!」と叫びながら、雑魚戦を延々と繰り返し続けていました。
そのせいで、レベルが無駄に上がって現在Lv.87。

ラスボス自体はもっと低レベルでも余裕で撃破出来るんだけど、まだ出会えていないポエムがあるかと思うと、雑魚戦ガチャがやめられず。

クリア後は、戦闘を全て「逃げる」で放棄してでも続けていました。
”座席を立つ”ことで、確実に戦闘終了出来るところも親切。


そもそも影の名前からして良いんですよね。
魂の標本」「救われぬもの」「ひからびた胎児」とか。

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外見自体は死ぬほど見慣れたRPGツクールの素材なんだけど、その外見に合った、けれど本作特有のセンスによる歪んだネーミングがされている。
人が生まれて死んで、残していく影。その名前。


その他のアイテム名にも、ちらほら伏線が張られていたり。

敵単体に大ダメージを与えられるアイテムの名前は「エスタゾラム
敵全体にダメージを与えられるのは「フルニトラゼパム
中ボスの名前は「バルビタール」に「オーバードース」……
これらの単語にピンとくる方にはおすすめRPGです!

以下、エンディングまでのネタバレ注意!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠りを妨げるもの

タイトルにアポトーシスという単語が付いている時点で、テーマは人体内で何かしら起きている機能不全なんだろうなと予想は付いていました。

アポトーシスは多細胞生物の細胞で増殖制御機構として管理・調節された、能動的な細胞死である。
生体内では、個体発生の過程で様々な臓器、組織の余分な細胞の除去、癌化した細胞や内部に異常を起こした細胞の除去、自己抗原に反応する細胞の除去などに重要な役割を果たす。
自己免疫疾患や神経変性疾患、癌では、おそらく正常細胞のアポトーシス制御機構に異常が生じている

引用:アポトーシス - 薬学用語解説 - 日本薬学会

 

その予想はまあまあ当たってる。

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キミは今眠っている。
君が眠りに落ち、現実世界から夢の世界へと向かうのが
この「幻想列車アポトーシス

キミの眠りは妨げられている。影によって。
そう、影とは。

死の記憶。

だから眠りを妨げる敵=影にダメージを与えられるアイテムは「エスタゾラム」「フルニトラゼパム」といった睡眠薬の名称なんですね。
どちらもベンゾジアゼピン睡眠薬の中間作用型。

睡眠薬について①|高津心音メンタルクリニック 川崎市 高津区 溝口 心療内科・精神科 町田

引用:睡眠薬について①|高津心音メンタルクリニック

で、中ボスの名前「バルビタール」も同じ睡眠薬の一種でありながら、ボスの名前になっているのにもちゃんと理由がある。

バルビツール酸系睡眠薬

睡眠薬の一種類。現在用いられている睡眠薬の多くはベンゾジアゼピンであり、バルビツール酸系が用いられることは少ない。
バルビツール酸系の作用は強力であるが、耐性や依存性が生じやすく大量に服用すると呼吸が麻痺して死に至る危険性がある。

引用:バルビツール酸系睡眠薬|睡眠用語辞典|

1930年代、エスタゾラムフルニトラゼパムといったベンゾジアゼピン睡眠薬が登場する前の、危険性が高い薬物だからです。

また別の中ボスの名前「オーバードース」はそのままODことオーバードーズ
薬を致死量まで大量摂取する自傷行為のこと。


つまり今作は「有害な不眠の原因を除去して入眠しよう!」という、割と健康志向のRPGなんですね。
死の記憶こと、影の扱いだってすごくまとも。

近きものの死。
遠きものの死。
恋人の死。家族の死。

君は眠りながら考えている。
死んだ人間のことを。

列車は走り続ける。あなたが影になる、その時まで。」という言葉でこのゲームは締められるんだけど、これもあたたかいメッセージだなと思います。
あなたが影になる=誰かが眠りながら死んだ自分の事を考えてくれている、ということですから。

第一印象は死に囚われた不安の影が色濃かったんですが、晴れ晴れとしたクリア後のメニュー画面まで含めて、健全なゲームでした。
生きていようが死んでいようが、安らかに眠れてさえいれば人は幸福なんですよね、きっと。