復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

漫画でわかる『BAROQUE』の全て!『BAROQUE 欠落のパラダイム』感想

スティングが1998年に発売したローグライクRPG『BAROQUE』。

それのコミカライズとして、2000年から2002年まで月間Gファンタジーにて連載されていた著:上田信舟『BAROQUE 欠落のパラダイム』新装版をようやく読みました。

単行本は全3巻で新装版が全2巻。

この量なら1時間くらいで読めると思いきや丸3時間かかりました。

それでも一度も休憩を挟まず一気に読み通せるぐらいには夢中。

すご~~~く面白かったです!

(以下、『BAROQUE』のストーリーを既に知ってる人向けの話)

 

設定説明について

漫画版の何が一番良いって、下巻で上級天使が自分の企みを一から十まで天導天使、もとい読者に説明してくれたところ。

内容自体はゲームでも既に説明されているものなんだけど、漫画としてコマ割りされ、上級天使本人の台詞として説明されると飲み込みやすさが全然違う。

例えば天使銃と天使虫リトルの関係性。

分かりやす~~~。

抽出された神の”痛み”という「情報」が天使の形を取り、それが眠る揺りかごそのものが天使銃の弾丸。

文字だけでは分かりにくいことも、絵にされてようやくその痛ましさが分かる。

これは、これは、天導天使が気に病むはずだわ……。

天使銃を撃てばがどんな異形も一撃で葬り去れるのは、この痛覚の情報が一瞬で体内を駆け巡るから。

神を殺せるほどの痛み、普通の異形が持ちこたえられるはずないんだよね。

 

そうして増殖させた天使虫の使い道は結局のところ死しかなく、そんな存在を産み出した張本人である天導天使の苦悩は深い。

だから天導天使は、主人公が毎回上級天使に与えられる天使銃の返却を自身に求めたのだし、天使虫リトルの浄化を主人公に頼んだ。

元は神の痛みである天使虫リトルを神に戻せば神に痛みが戻り、正常に近づく。

で、その戻す方法として神の多重神格者であるアリスを媒介する必要があり……みたいな、ストーリーの流れを連鎖的に理解していくのが本~~~当に楽しかったです!

 

創造維持神の元に行く度に死んで地上に戻されるのも、一つずつイデアセフィロスを集めていくためだってのもようやく分かりました。

天使虫リトルのイデアセフィロスで神に痛みを戻す。

主人公のクローンのイデアセフィロスで主人公に彼自身の記憶を戻し、神に正常な情報を送る新たな感覚球を作り出す。

その過程で弟(12号)の代わりに兄(13号)が行動していたり、最後に目覚めるのがクローンの素、12号オリジナルであったり。

 

「こんなんあのゲーム進行で分かるわけないだろ!」と「いや、でもこれ全部ゲームで説明されてたな……」という思いが拮抗し、結局のところ「漫画の情報伝達能力ってすご~」という感嘆に落ち着く。

いや、元々の設定からしてすごく良く出来ているのが第一なんだけどね。

 

上級天使が語った『BAROQUE』における痛みの扱いって私の想像よりずっと重要だったんだなと思います。

”苦痛”は”苦しい” 
だがだからこそ我々は歪みはじめた自分に気づくことができる

つまり……<痛み>とは異常を悟り自己を修正するためのシグナルなのだ
そして今や我らが神はそれを失った

だから神は気づかないのだ
人工感覚球から偽の情報が流し込まれていることに

神は病んでいるのだ それと気づかぬまま

痛みのないまま狂う神。

それってどんな心境だろうと想像する時、私はこの漫画の新装版上巻、上級天使の表紙を思い出します。

私はこの絵、今の神の状況みたいだと思うんです。

痛みのない真っ白な世界で、でも自分の心臓は誰かに握られていて、自分は歪まされているのだと分かっていてなお拒絶出来ない。

だから狂う。恐ろしいことですよ、ほんと。

 

 

キャラクター別感想

登場人物にとって大事な台詞は人を変えて2回繰り返してくれるのもすごく親切。

主人公にとっても

上級天使にとっても。





主人公

結合双生児として産まれた主人公は自身の生存のために、半身の兄を切り捨てて生きた。

その兄の居場所が彼自身の欠落なのだと思っていたけど、実際は違ってたんですね。

僕は僕であっておまえの一部じゃない
今も わかち難く結ばれていたあの頃も

おまえの欠落はおまえ自身のもの

僕にはそれを埋めてやることはできない

誰にも…たとえ神にでも

おまえ以外の誰にもできないんだ

例え兄がいようがいまいが、彼自身の素質に欠落はあった。

たまたま結合双生児の生き残りという境遇が見えにくくしていただけと明かされた時、「ああ、彼も普通の人間なんだな」と思いました。

一人で産まれ一人で生きていく、他のごく一般的な人たちと同じように。

 

そしてその兄との会話を「妄想でもいい」と言い切ったことに私はすごく感動した。

それがたとえ幻でも
僕の妄想だったとしても…

私が『BAROQUE』をやったのはPS版で、その時の副題は「歪んだ妄想」。

タイトル回収がこうした形で行われた事が意外だったし嬉しかったです。

妄想でもいいんだよ、信じられるのなら全ては何だって。

それに本編のラスト、多重神格者が描かれるコマの中にお兄ちゃんもいたので、彼もちゃんと弟の中で妄想ではなく生き続けていくのだと思います。

 

 

上級天使

私が今作で唯一泣いたのは、上級天使とお姉ちゃんの間にあった、たった3コマのやり取り。

(あまりにも素晴らしいシーンなのでもう1回貼る)

この時のお姉ちゃんの表情が良すぎるんだよなあ。

 

世界の歪みを映す赤い瞳を、お姉ちゃんと天導天使だけは綺麗だと言ってくれた。

主人公が兄を慕った弟だったように上級天使も姉を愛した弟であり、偽翼を背負ったただの人間だったんだなあ思うと、いやはや可愛い男ですよ。

 

調べてみたところ、ゲームの方でも姉の存在について言及があったんですね。

以下は有志ファンサイト『BAROQUE文芸データ』からの引用。

姉が死ぬとき、ミルクを飲んでいた。

赤い血と白い液体が頭の中で渦巻いている。

わたしは、姉のために、世界を。

姉の歪んだ姿を恥じた父は、姉を隠し、姉は自分の中に隠れていった。

わたしには、それが耐えられなかった。

間違っているのは、姉ではない。世界だ。

姉が透明の存在になっていくことがわたしには耐えられなかっただけだ。

世界は歪みを見えないことにしてどこまでも逃げていく道化たちの楽園。

空虚な楽園を、姉と同じ姿にしたかっただけだ。

姉は泣き叫ぶことさえなかった。

ただ静かに歪んでいった。

本当にお姉ちゃんのこと、大好きだったんだね……。

ただここまで愛した姉とのやり取りはたった一度、ほんの一瞬だけというところがすごくいい!

だってそれは常に兄と繋がり、けれど彼が生きている間は決して言葉を交わせなかった主人公との対比に映るから。

 

 

天導天使

長年PS2&wii版OPのYouTubeサムネイルが天導天使だったことを疑問に思ってたんだけど、今なら分かる。

そりゃ天導天使ですよ……。

リメイク版の発売が2007年なので、2002年まで連載していた今作もリメイク版の基になっているのは確実のはず。

漫画版の彼女はかなりのキーパーソンなので、これぐらいの待遇はしていいよね。

 

私は上級天使と天導天使の元上司・部下だった関係性もすごく好きです。

今は認メルことができる

ナゼ私が今更あなたヲ裏切ルことができたノカ


あなたの望む世界には 私はいなかった

私にはそれが どうしても

いや、そんなの当たり前じゃん!

そもそも天導天使、その他同僚が全て死ぬ計画を明かしておいてここまで協力してくれたこと自体上級天使はありがたいと思うべきなんだけど、そんなことを思う男では一切ない。

 

天導天使が言えば、上級天使は彼女に存続の道を用意してくれたんだろうか。

上巻で天導天使が主人公との間に割って入った時、「やはり天導か。他の者にこんな真似ができるはずもない」と苛立ちながらも彼女自身の能力は高く評価してたんだよね。

最後「せめてずっとここにいてくれないか…?」と乞うたのもゲーム版では主人公相手だったけど、漫画版では天導天使に変更になってる。

ゲーム版では断じてないだろうけど、漫画版だったら万が一の可能性があるかも?

上級天使が彼女のことを「天導」と呼び捨てにしてるだけで私はときめきますよ……。

 

 

キャラ別感想としてはこのぐらいかな。

それにしたって漫画版『BAROQUE』がこんなにも皆が笑顔で希望を持ち、爽やかに終わる話だとは思いませんでした。

ゲーム本編の後味とはまた違うんだけど、それはそれこれはこれで楽しめる最高のメディアミックスだったと思います。

 

 

余談

2024年1月にアトラスから発売されたスティング開発タイトルのサントラが一斉配信・サブスク解禁されまして。

これによってPS2&Wii版の超格好いいOP曲『Sinful Eyes』も手軽に聞けるようになりました。

Sinful Eyes

Sinful Eyes

  • スティングサウンドチーム
  • テレビゲーム
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

私が『BAROQUE』に興味を持ったのもこのアニメOPが曲・映像共に素晴らしかったから。

元々この映像を手掛けた映像作家・高津幸央氏(『ペルソナ3』や『アーシャのアトリエ』OP映像監督)のファンだったんです。

ガストのアトリエ(黄昏シリーズ)からSTINGの『BAROQUE』『ユグドラ・ユニオン』をプレイするまでに繋げてくれたのは完全にこの人のおかげ。

 

一つの一つの意味深なカットに意味があって、ゲームクリア後に見返すと「そういうことだったの……」とその全てに納得できるよう作ってあるのがたまらなくいいんです。

例えば冒頭に映る左右対称のマーク。

これってまるで腰椎みたいじゃないですか?

(引用:Visual Anatomy 視覚解剖学

主人公と兄を結合双生児として繋げる腰の骨。


このOP映像はリピート再生と左右対称の構図が多用、強調されてる。

繰り返しは何度も死んで戻るローグライクというゲームシステムを、左右対称の構図は双子だった主人公と兄の関係を表してるんだと思う。

2つの同じ顔が混じりすれ違うとことか特に。

 

ただそこに上級天使が絡んでくると、主人公とそのクローン達の話になっていくという印象。

上級天使が作ったクローンとの対峙が告解めいた構図で行われるのは、本当に悪趣味な嫌がらせみたいだ。

また主人公の手から流れた血、その枝分かれした分岐に無数の横顔が映るのも、命を落とした主人公の記憶を書き込まれて再び目覚める素体「僕/君」らしくて良い。

16年経っても色褪せない神OPで素晴らしいです。

欲を言えば高画質化されたものもYouTubeにあげてほしいけど、それはリメイク版がまた再びswitch以降に移植されないと難しいのかなあ。