G-modeアーカイブス13弾『臨時終電』というホラーサウンドノベルをプレイしました。
クリアまでの時間は3時間半程度。
赤字で”臨終”になってるタイトル画面からして最高ですね。
千羽鶴シリーズ第三夜。
謎の列車に乗った乗客を襲う奇怪な出来事…。『いや…僕を置き去りに走っていく終電の姿を見た覚えはあるんだ。
その後…。そうだ…終電の次の電車がホームに入ってきた。
その行き先パネルには…「臨時終電」と書かれていたんだ。』深夜、とある路線の終電に乗り合わせた数人の乗客。
闇に包まれた景色。見知らぬ無人駅。初夏の雨上がりの夜に浮かび上がるアジサイの花。
ミステリアスな雰囲気と、元の世界に辿り着けない恐怖がそこに…。
G-MODEアーカイブスと言うのは、かつてのフィーチャーフォン(=ガラケー)のゲームを当時のまま忠実に再現し、swtichのDLソフトとして展開する復刻プロジェクトのこと。
今作は引用したあらすじ通り、止まらない電車が舞台のゲームなんですが
ホラーサウンドノベルの血脈はガラケーに流れていたって、何で誰も教えてくれなかったんですか!?
いつまでも『街〜運命の交差点』と『428〜閉鎖された渋谷で〜』の幻影を追いかけるホラーサウンドノベルゾンビにとって、今作は100%理想通りの正統派後継者でした。
充実のフローチャート!(一番重要)
スピーディーでノンストレスの既読スキップ!
エンディングリストも完備!
私がサウンドノベルに求める機能は全部揃っていて大満足。
自分にとって理想のゲームを引き当てた時の興奮は何者にも代えがたいものがあります。
しかもこれで500円は価格破壊だって……!
今作の発売は2011年。
『かまいたちの夜』の発売が1994年、『街~運命の交差点~』の発売は1998年、『428~閉鎖された渋谷で~』の発売だって2008年だったことを考えるとかなり新しい。
まさしく正統派サウンドノベルの後継者と言っていいんじゃないかな。
ストーリーの大筋としては、列車内で起こる様々な怪奇現象に翻弄される電車止まらん系。
ただ「火災車両に閉じ込められる」という設定には、元ネタとなった車両事故がちゃんとあります。かなりしっかり。
リアルとフィクションが「現実にあった事故」として繋がる瞬間、ホラーは恐ろしさと同時に悲しみを帯びます。
『臨時終電』はゲームであり、サウンドノベルだから、選択肢によって未来が分岐し結末が変わる。
けれど現実の事故で亡くなった人の苦痛とその先にあった死は、逃れられるものでは決してなくて。
一秒前の過去にすら干渉できない現実の無力さは、いつもとても歯がゆくて悲しい。
でも同時に不可逆だからこそ救われるものもあるのだと、今作をプレイしていると思いますね。
という訳で、以下はその元ネタについての考察文章。
最初から最後まで全てがネタバレ&列車事故のショッキング画像があるので、未プレイの方はご注意。
3時間半でクリア出来るお手軽さもあるし、本当にこれで500円は信じられないぐらいコスパ良いので、ぜひぜひプレイしてみて欲しいです。
40年前の6月23日と3つの列車事故
怪奇現象の原因となる列車事故が起こったのは40年前の6月23日。
日付まで指定してくるっていうことは何かあったんだろうなと思って調べてみたらビンゴ。
ゲーム発売年の2011から40引くと1971。
多少の誤差はあるけど、1972年6月23日に京浜東北線で日暮里駅構内追突事故が起こってる。
【日暮里駅構内追突事故】
1972年(昭和47年)6月23日
京浜東北線北行電車(10両編成)が日暮里駅を2分遅れで発車したところ運転台の戸閉表示灯が消灯したためブレーキを掛け、約90m進んだ所で停止した。一方で、後続の山手線内回り電車(10両編成)の運転士は一つ手前の鶯谷駅を1分遅れで発車し日暮里駅に進入しようとする際、先行列車がホーム中央部分に停車しているのに気付き、非常ブレーキを掛けたが間に合わずに追突し143名が負傷した。
引用:(まもなく福知山線事故から14年。過去の事故の歴史から鉄道の安全性を考えてみました。(鳥塚亮) - 個人 - Yahoo!ニュース)
ただ列車内での火災という点は、同年1972年11月6日に起こった北陸トンネル火災事故をベースにしているはず。
【北陸トンネル列車火災事故】
1972年(昭和47年)11月6日
北陸本線北陸トンネル内を走行中だった、大阪発青森行き急行列車「きたぐに」の11号車食堂車から火災が発生し、列車が当時の規則に基づいてトンネル内で停車した。しかし、密閉された空間であるトンネル内だったことから、乗客・乗務員の多くが一酸化炭素中毒にかかり、30名が死亡、714名が負傷した。
この事故の教訓から列車火災発生時はトンネル内で停車しない規定に変更された。
この事故後に取られた対策は、ゲーム内でも語られていたことだし、列車から脱出出来た要因そのものでもある。
車両の構造上においての主な対策としては、
・内装材をアルミ化粧板に取り替え
・隣の車両への延焼防止のため、貫通幌の難燃材料化
・車両に消火器を備え付け、もしくは増備
・寝台車に煙感知器の取り付けと非常用携帯電灯およびメガホンを備え付け
・床下にディーゼルエンジンを積んだ寝台車への自動消火装置の取付けなどがある。
また中盤で列車が鉄橋から落ちるという展開は、1986年12月28日に起こった山陰線余部鉄橋列車転落事故あたりが元ネタなんじゃないかなあ。
【山陰線余部鉄橋列車転落事故】
1986年(昭和61年)12月28日 13時25分ごろ
下り臨時回送9535列車(ディーゼル機関車+客車7両)として山陰本線鎧- 餘部間にある余部橋梁を約50km/hで走行中、日本海からの強風にあおられて、客車がすべて鉄橋から転落。機関車は客車より重いため転落を免れ橋梁上に残った。
3タイプの列車事故を展開に組み込み、臨時終電、すなわち臨終に絡めてきたシナリオライターの手腕に脱帽です。
こういうのをセンスあるって言うんだろうなあ。
好きなED
個人的には全員脱出EDよりも、40年前の乗客者、すなわち死者である高崎あかりと主人公が燃える列車の中に残ることを選んだEDの方が好きかな。
「ずっと一緒にいて…これから何度この火事が繰り返されるとしても…」
僕は無言でうなずくと、あかりの肩に手を回してぐっと抱き寄せた。
炎が僕らを包んだ。…それから…幾度も同じことが起きた。
二人だけの繰り返される悲劇の中で、
僕らは焼けただれながら…
お互いを慈しみ、いつしか愛しあい……
真っ黒な焼け炭のような姿で抱き合いながら…ただひたすらに終わりを待ちながら…
私はここの「焼けただれながら」「いつしか愛しあい」という文章にすごくグッと来ます。
愛し合った2人が焼かれゆくのではなく、焼けただれながらいつしか愛しあう、なのが良いんです。
肉体は焼炭と化すような凄惨な状態なのに、心の奥底に安らぎが芽生え始める。
常に火葬状態という地獄もかくやという状況下ですら、男と女は愛し合い始める。
そこにあるのはもはや生物としての本能ではなく、人間としての業でしょう。
性欲なんていう生温いものを介す事なく、ただひたすら、お互いの業を剥き出し合いながら求め合う。
一人の男と一人の女の愛、その凄まじさに圧倒される思いがしました。
この先未来永劫、彼らが待っている終わりなんて来ません。
(終わりが来る場合はまた別のED扱いになるので)
じゃあそうしたらずっと、彼ら2人は今と同じ熱量で愛し合えるのだろうか、という疑問もあります。
個人的には、焼けただれながら愛し合う事が始められるのなら、焼けただれながら憎しみ合う事も始まるんだと思う。
でもこの先ずっと、2人は一緒だから。
愛と憎しみをメビウスの輪のように繰り返し続け、どこにも辿り着けない男女を抱いて、どこにも辿り着けない列車は進む。
私はそういう果てることのない、哀しい永遠が好きなんだと思います。
千羽鶴シリーズ第1夜『千羽鶴』について
今作『臨時終電』は千羽鶴シリーズ第3夜と銘打たれているので当然、第1夜と第2夜もあります。
『千羽鶴』は千羽鶴シリーズの第1夜。
シリーズ化されているけど、共通しているのはサウンドノベルというシステムだけでキャラも話も全て独立しており、千羽鶴が関係あるのはこの1作目だけです。
千羽鶴とは一般的に、「祈願」の為に折られるものと知られている。
しかし、一種の執念や絶望的な願掛けという側面をもっているという…。
主人公「佐々木祐一」は、平凡な26歳のサラリーマン。
ある朝、祐一は九十九総合病院という、 聞いたことのない病院から電話を受ける。
前の晩、恋人のまゆりが搬送されてきたらしい。彼は急いで九十九総合病院に向かうが…。
システムやストーリー、全体の完成度は3作目の『臨時終電』の方が上なんだけど、雰囲気を加味するなら私は『千羽鶴』の方が好きかな。
不気味な病院の中で、怪奇現象に巻き込まれるというシチュエーションが大好きなので。
いや、だってさ病院食で乳歯入のクリームシチューとか出されたいじゃん!?
看護師長のビジュアルがやたらめったら気持ち悪いのもよし。
ちょっと話は逸れるけど、私、YouTubeで怪談師が語る怪談話を聴くのが大好きなんですよ。
けれど、怪談話においての精神科病棟の扱いって、いつも偏見に満ちていて辟易します。
そこで語られる狂人の言動って大体は統合失調症の症状だし、その原因は(完全に解明されていないとはいえ)脳の神経伝達機能障害にあるんですよね。
誰にでも起こりうる脳の機能障害を悪し様に笑うのは、フィクションと言えどかなり気分悪いんですが、今作は内科に行こうが外科に行こうが小児科に行こうが、ちゃんとぶっ殺されるところが、ある意味平等(?)でいいなって思います。
千羽鶴シリーズ第2夜『ナイトハイク』について
千羽鶴シリーズ第2夜『ナイトハイク』は、第1夜の雰囲気と第3夜の集大成感に及ばずながら、伝奇ホラー&バトルロワイアル系ホラーのミックス仕立てで普通に面白かったです。
千羽鶴シリーズ第二夜。
暗闇の中、得体の知れない恐怖がアナタを襲う。「ナイトハイク」とは、夜間の山道を灯り無しに歩くことで、人間が持つ闇への耐性や 普段使わない感覚、また他人との連帯感をも高める野外プログラムだという。
駆け出しの記者「飯塚慶太」は、その「ナイトハイク」という耳慣れない言葉に惹かれ、 首都圏近郊の寂れた野営地で行われるアウトドアツアーに参加するが…。
ただやっぱり他の2つに比べれば雰囲気の格が数段落ちるかな。
廃病院と廃列車に比べると山のキャンプ場ってそこまで怖くないんですよね。
ごく普通の初夏のハイキングコースなんだから、全速力で走れば何とかなるでしょって思うし。
でもシリーズファンとしてならプレイしておいて損はないと思う。
なにせ3時間半500円ですし。
ちなみに、何故か今作だけネットに全然攻略情報がなかったので、個人的に作成した攻略チャート画像を貼っておきます。
うーん、見方分かるかな。
<EDリスト>の番号と<チャート>の結末番号が対応してて、白い3つのボックスは上から順に選択肢【A】【B】【C】に対応しているんだけど……まあ、プレイしてる真っ最中の人なら分かるはず!
タイトルロゴとか赤い靴跡とか、公式に似せようと頑張ったところは褒めてください。
少しでも「ナイトハイク 攻略」で辿り着いた方の(いるのか?)手助けになりますように!