あきばれさん(以前感想文を書いた『汝の神を愛せよ』と同作者)制作の15禁女性向けフリーゲーム『ヌシアルハナ・ハルノヨ』というフリーゲームが大好きでして。
好き過ぎて今までずっと感想を書きあぐねていたほどなんですが、どうしても2022年一発目の更新はこの作品にしたくて、初プレイ時から約3年経った今、ようやく感想文記事として書き上げられました。
【物語】
とあるメイカのブンケに生まれた双子のカツラとカズラ。
生まれた時から周囲に忌まれていた二人は、早くに両親を亡くし互いを拠り所にして生きてきた。
月日は流れ、カツラは代々行われるキンシンコンの為ホンケの嫡子と結婚することとなる。
ホンケの屋敷での新しい生活に、カツラは不安しかなかった。
仕様としてはオーソドックスなシステムの女性向けノベルゲーで、攻略対象は男性4人+女性が1人。
男性陣は、夫だったり、双子の弟だったり、夫のいとこだったり、夫の従者だったりと、少なからず血縁関係がある人達ばかり。
攻略対象の中では唯一の女性も夫の妹、つまり義妹になります。
私はこの義妹こと、サツキ様のことが本当に大好きで!
神格化し過ぎて様付けでしか呼べないぐらい好きです。
もちろん主人公であるカツラ+4人の男性陣(双子の弟であるカズラ、夫であるツバキ、その従者であるアザミ、夫の従兄であるチガヤ)のこともすごく好きなんですが
でもサツキ様+サツキ様ルートのカツラ、この2人だけはものすごく特別なんです……!
全媒体の創作物を含めてもトップクラスに好きな2人で、今回の記事では改めてこの2人のどこがどう好きかを書き残連ねていこうと思います。
全体としてのプレイ時間は1人あたり約30分で各ED数3×5人+ノーマルEDの全16EDで、約2時間30分。
まず、UIやキャラの服装による画面デザインがめちゃめちゃ好きです!
こういう風に背景を写真かつ一部左上のみに表示させているデザイン、私は今作で初めて見ました。
窓枠は黒レースでウィンドウ部分は黒地&白文字と、部分的にはゴシック調なんだけど、登場人物の衣装、そこにあしらわれているおおぶりな花達は東洋風で。
和洋折衷をとりまとめ、その上で上品なゲーム画面に仕立て上げているセンスがすんごく好きです。
以下はサツキ様ルートのネタバレ感想文。
未プレイの方はご注意を……というか彼女のルートをプレイしていないとよく分からないであろう文章ばっかりなので!
ぜひ先にネタバレ無しの状態でプレイしてから、私の萌え語りに付き合ってほしいです。
サツキ様共通ルート
主人公の夫であるツバキの妹かつ、アルビノとして生まれたのでずっと蔵に閉じ込められてきたサツキ様。
初プレイ時の前半は「口を開けば死ねとしか言ってこないな、この女の子……」とごく普通の感情を抱いていました。
既にツバキとカズラルートを終えた後だったので、このゲーム内での主人公の扱いなんてこんなもんだと思っていたし。
だから、サツキ様の方から唇を重ねてきた時、私は本気でびっくりしました。
えっ!??この子、カツラの事そういう目で見てたの!?
「そんな気配どこにあった!?」と腰を抜かしていたら、カツラの方もサツキ様の表情を見て、「それが心からの笑顔であることを私だけが、知っていたのです。私とサツキ様だけが知っていたのです。」とか言い出して、二重にびっくり。
カツラの方もこの子のことすごい好きじゃん……!?
確かにサツキ様ルートでは、序盤からカツラが自分の素の感じを他のルートよりかなり出している気はしていました。
他のルートでの彼女は男性側からの酷い扱いに目を伏せて耐えてる印象が強くあったけど、この女の子にだけは自分から、控えめだけど確かな親愛を示していて。
自分の食事に出された桃を持っていったり、過去もそういう風に物を持ち込んでいたことに言及されると「それでも、喜んでくださるサツキ様が見たかったのですよ」と答えたりね。
こんな風に主人公が穏やかな笑みを浮かべるのは、これが初めてのような気すらして。
でもそれは唯一の女同士だからで、サツキ様はそれを全部突っぱねるし、普通に嫌われてるんだろうなと思っていたら、この触れるだけのキスですよ!??
「いやいや、えっ、なにこの百合ルート!?めっっちゃ良いんだけど!?」と大興奮したし、ここから間髪入れずに迎える3つの結末が私はもう本当に大好きです。
惨劇ED
サツキ様が火事を起こした後、初手でカツラを刺し殺した場合のvsツバキ戦ED。
ツバキ「…………殺してやる」
「どうぞ?そのつもりだったよ わたしは」
「カツラはね、ここから逃げたかった。でも逃げられなかった
それなら死ぬしかないだろう。でもカツラは死ねない。
死にたいのに死ねない。だったら殺すしか、ないだろう」「わたしだってその方がいい。
わたしからも逃げるなら、おまえなんかにけがされるくらいなら。
わたしが殺して、
わたしが自由にしてやったほうがいい!」
その通りです……。
ぐうの音も出ない正論でびっくりしちゃうな、逆に。
カツラが置かれた現状と、そこに対する心情をここまで正確に理解してくれているサツキ様が殺して、サツキ様が自由にしてあげた方がいいって、私もそう思います。
このセリフ一発で「いや、もう、サツキ様が一番。サツキ様が一番カツラの事を分かってるし考えてる」と落ちました。
もう100点満点の回答だと思います。
後述する2つのEDが100点を越えているだけで、サツキ様が全ての結末でカツラを救えるのは、根底に彼女への正しい理解があるからだと思います。
籠の鳥ED
カツラとサツキ様、2人の心中ED。
「きめていたんだ。さいしょにきた人間を殺すと。
…………うすうす、おまえだろうと予感していたけど」「だからこうやっていそいでかけつけてくるなんて
おまえくらいだとわかっていたよ」「…………うれしい。わたしを案じてくれたの」
「わたしを、まだ好いてくれているの」
カツラ「…………だ、って……私のたったひとりの、友、ですから」
「ふうん。ゆうじん、ね。ふられてしまったよ。
わたしはおまえの最愛になりたかった。
プレイ当時、「うれしい。わたしを案じてくれたの」の文章が表示された時、本当に心臓が止まったかと思いました。
あまりにも素朴な一言だったから。
泣きたくなるくらい純粋で、何の色も帯びず、透明にすら思えるほどの安らかな喜びがそこにはあったら。
「わたしはおまえの最愛になりたかった」と告げる言葉も、そこで浮かべた笑みも、あまりに清々しくて、潔くて、全てがもうすぐ過去形になる今だからこそ、手渡せる温もりがあった事。
それを、私は忘れたくないんだと思います。
「愛してるよカツラ。誰よりも、なによりも、おまえだけだ。」
「みがってだとわかってるよ。だけどカツラ。
それがなくたって、これが最良だとおもわない?こんな一族、こんなところで生きてゆくの、辛いだろう。いやだろう。
もうこんなところ、いやなんだろう?死んでようやく、わたしたちなかなおりできるかな
ふぇぇ~~~~ん……(泣いてる)
この籠の鳥EDは惨劇EDよりももう一歩先、お互いがお互いに一歩歩み寄れた結末だと思います。
その一歩が、どれほど彼女達にとって大きく、重要だったのかを思います。
結果的には2人共死ぬし、カツラを殺したのはサツキ様だし。
でもサツキ様がちゃんとカツラのことを正しく捉えられていたことを本人に伝えられて、恋と愛と友情が混ざった感情にカツラの言葉で終止符を打たれて。
それはサツキ様としても本望だと思います。
で、その後のカツラの独白が最高に良いんですよね。
好きな文章の多いこのゲームの中でも、特に大好き。
腹から、熱いものが流れて。流れて、流れ出て、とまらなくて。
それは長年溜め続けた、私の醜いもののように、思えました。
それが体から流れ出てゆくことで、私は少しずつ、
清らかになっていく気がしました。
身も、心も。苦しみも、悲しみも、憎しみも、恨みも、痛みも全て、
忘れていくような気がしました。軽い。身も、心も。軽くて、清らかで、穏やか。何年ぶりの、ことでしょう。
もしかしたら、生まれて初めてのことかもしれません。もう、いいのですね。もう、いいのね。何にも悩まなくて、傷付かなくて。
もう私、ぜんぶぜんぶいいのね、
もうぜんぶ、いらないのね。ありがとう。ありがとう、サツキ様。私の友人。
私を殺してくれてありがとう。私を自由にしてくれて、ありがとう。最後にもう一度、こころから、あなたを穏やかに思えて、よかった。
うっ、うっ、う~~~………(めちゃくちゃ泣いてる)
ここの独白通り、彼女の中に詰まっていたのは憎悪と嫌悪でしかなかったんですよね。
ツバキが嫌いで、ホンケが嫌いで、自分を取り巻くもの全てが嫌いで。
そしてそれ以上に、そんな場所でしか生きられない自分の無力さが一番大嫌いで。
でもそんな彼女でも、サツキ様のことだけは、ずっと友達だと信じて疑わなかった。
友情というのは対等な関係でのみ築かれるものです。
だからカツラがサツキ様を「私の友人」と言うのなら、彼女の中では唯一ずっと、サツキ様だけが対等に話が出来る存在だと思っていたんですね。
彼女達の間にあった結婚だとか家の存続だとか、そういう邪魔なものを全部心中という手段で取り払った後にようやくやっと、彼女たちはただの友達として笑い合える。
サツキ様がカツラの首を抱えて見上げた晴空、その青の中に女の友情というものの力強さを見た気がして、本当に好きなEDです。
終焉ED
サツキ様がツバキ&その他親戚諸々大量殺戮ED。
「…………血?怪我をされているのですか?」
「わたしのものじゃない。
げなんげじょ、そしてちちうえあにうえのかえり血」「………………え?」
「殺したよ。殺してやった。だけどまだたりない。ぜんぶには、まだ」
「わたしやっぱり、おまえを殺せないんだ
それならカツラと一緒にいきてゆくのも、いいと思った
だけどわたしたちが生きてゆくにはじゃまがおおすぎる。そうでしょ。
だからぜんぶ、殺さなければね」
マジで!?ツバキ様死んだ!??やっっっっった!!!
「もうすこしだけ待っていて。
あとすこし、あとすうにん殺せば、わたしたち一緒になれる」「わらってカツラ。
そうすればわたしもうすこしがんばれる」
ここの喝采感たるや、もうすごいものがありました。
それはカツラだって一緒で、私よりもずっとずっと強くそう感じていたはず。
誘われるように、わたしは小太刀を手にした血まみれのサツキ様を抱きしめました。
そうするとサツキ様は、あどけない少女のように軽やかに笑いました。
つれるように、私も久方ぶりに、笑みが零れました。血に塗れたサツキ様が、とても美しく見えたのです。
当主様、ツバキ様を殺したというサツキ様が、
とても頼もしく、とても愛おしく見えたのです。
解放されたと思いました。自由になったと思えました。
サツキ様が、私を助けてくださったのだと思うと、嬉しくて嬉しくて、笑いと共に涙が零れました。
プレイヤーとしてはツバキ様の抑圧っぷりも大好きなんですけど、カツラのこの喜び純度100%の涙を見ると、どうしてもサツキ様派についてしまう。
彼女はきっと、サツキ様が手にかけてくれた自分と、サツキ様の隣で息をしている自分なら好きになれるんだろうなと思います。
自分の中にあった憎悪と嫌悪を、吐き出しながら死んで、薄めながら生きていける。
それこそがまさに、救いというものの本質ではないかと私は思うんです。
サツキ様ルートに入ればどんな結末を迎えても、カツラは大嫌いだった自分自身の事を、もう嫌わずに済むのだと思うと、やっぱり私はサツキ様派なんですよね。
この終焉EDを迎えた翌日の朝を想像すると、本当、泣きそうになります。
カツラのここ十年の人生の中で初めて、絶望の延長ではなく、はじまりの予感で目を開けた瞬間の安堵と幸福、そこに差している朝陽の輝きを思います。
そしてそれはきっと、サツキ様にとっても同じことで。
蔵の中に幽閉され続け、陽光なんて捉えることも無かったはずの瞳が、生まれて初めて光の中で瞬く。
同じ朝を迎えながら、同じ光の中で、同じ幸福に触れている2人の姿を思うと、私はどうしても、彼女達の幸せを願わずにはいられないです。
彼女達のはじまりと終わり
サツキ様ルートにおいて始まりの夜。
彼女が自分の手で蝋燭の火を落とし、勝負の幕を切って落とした瞬間を思うと私はたまらない気持ちになります。
カツラが来るのか、来ないのか。
現当主である兄を殺せるのか、殺せないのか。
賭けられるものはいつだって自分の命しかなかった女の子が、ああも強かった奇跡を思います。
カツラが話しかけてこないままだったら、彼女は自分のルートを除いた15ED中、14EDの結末では蔵の中でひっそりと死ぬだけなんですよね。
でも勝負の場に立った以上、例えどの過程を辿っても彼女の精神だけは救ってやれる。
勝率100%ですよ。
惨劇EDでは理解を、籠の鳥EDでは解放を、終焉EDでは未来を勝ち取ってくれたその勝負強さが好きです。
強い女の子って本当に良い!大好き!
3つのEDどれも大好きだけど、一番を選ぶなら終焉ED……なのかな?
カツラが自分の意思で、自分の周囲を変える事が出来る唯一の結末だからです。
子孫を残さないという自分の選択で、あの大嫌いだったホンケを終わらせていける。
ここから初めて、彼女はようやく自分に対する自信と信頼を培っていけるんだと思うので。
実を結ばぬ徒花だからこそ禍根を残さず去っていける幸せを、私は終焉EDでの3人、カツラとサツキとカズラの姿に見ます。
「主ある花」というタイトルに背き、終わりの未来に向かう彼女達の後ろ姿がせめて光に溢れたものでありますように。
共に枯れ、朽ち果てていける喜びを3人がそれぞれの形で大事にしてくれていたらいいなと私は思います。