復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

コマンド入力型インタラクティブ・オムニバスホラーADV『Stories Untold』感想

switchにて『Stories Untold』というインタラクティブ・ホラーADVをプレイしました。

プレイ時間は3時間で、ED数は1。

4つの章をクリアすることで一つの結末に辿り着くオムニバス方式になっています。

 

1章では廃屋と化した実家の自室でテキストゲームをプレイし


2章では心臓が格納された箱への反応実験を行い

3章では北極の観測所で無線の解読作業に取り組む。

1章~3章はどれもジャンルも違うし、行う作業も違う別々の話。

でもこれが4章で全部繋がるんですよ!

各話で起こったイベント全てに意味があり、咎があり、その責はたった一人の人物に集約される。

それを証していく最終話の迫力はただただ圧巻の一言でした。

めっっちゃくちゃ面白かったです!

という訳で以下、ネタバレ感想。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

1章『棄てられた家』

1章でのプレイスタイルはテキスト・アドベンチャー。

廃屋と化した実家の自室でPCゲームをプレイするというストーリーで、表示されるコマンドを入力してゲームを進めていきます。

例えば「見る→周り」で見つけた廊下に「行く→廊下」で進むという感じ。

 

ただこれが左のブラウン管テレビの中で行われるゲームだから、文字がめちゃくちゃ小さい。

正直、文字が小さすぎて読めない!

……いや、まあ頑張れば読めるんだけどね。

物語に没入すればすぐ気にならなくなるとは言え、私はよくこれをSwitch Liteの画面でクリア出来たな。

 

1章というか全体を通して印象的なのがフォトリアルなCGと光の演出。

不気味に展開されていくゲーム内容とリンクするように、卓上のデスクライトも怪しい明滅を繰り返す。


今作はそういう色と光の演出が秀逸で素晴らしい。

 

テキスト主体で進む章なだけあって、印象的な文章も多かったです。

寝室だ。よく知っている気がする。
壁は湿っているが、あなたは前にもここへ来た。

パソコンの前に誰か座っている。
ライトがついている。
時計は99時99分を差している。


あなたがここにいるはずがない。

ぼくがここにいるはずがない。

あなたはメモを強く握った。

ここでいう「あなた」は誰で「ぼく」は誰で、ではパソコンの前に座ってコマンドを入力しているのは一体誰?

ゲーム内ゲームのプログラムと、ゲーム内ゲームのプレイヤーの2者しかいないはずの部屋に今、3人がいる。

私は1話のここのメタ的表現で一気にやられました。

 

ラスト「今これを終わらせないと……」に対する選択肢が「終わらせる / 終わらせる / 終わらせる」なのもまた良し。

こういう3択に見せかけた実質一択、ノベルゲー好きは絶対に好き。

 

 

 

2章『ある実験』

2章でのプレイスタイルは指示に従った実験器具操作。

モニターに実験内容の指示が送られてくるのでその内容を確認。

例えば上記の画像(実験1)だと「X線を照射し、内部構造を判断せよ」とあるので

マニュアルの1ページ目、X線の項目を開き

カメラ」「モニタ(X線モードに変更)」「CC86 X線チャージャー」の電源を入れることを把握。

次にマニュアルの6ページ目にある機器配置図を参考に

各機器の電源を入れたりスライダーを調整したりすると

左下の緑ランプが光るので、それを押して実験開始×4回という感じ。

これね~~~、すごい楽しかった!

私自身がマニュアルに沿って何かをやるということが好きなので性に合ってました。

あと音も臨場感を引き立てていて良かったな!

つまみを回して出力を上げると音もそれに合わせて甲高くなり、その密度に心理的恐怖や圧迫感を煽られる感覚が正統派ホラーっぽい。

 

 

ただこの章は実験が終了して箱が開いてから本番。

箱の中に格納されていた心臓の中から球体の電子機器みたいのものが浮かび上がり、モニターには第1話と同じ様なメッセージ画面が表示される。

あなたは冷凍睡眠ポッドの中で目覚めた。
重力に抗って体を起こす。
惑星地表部に突っ込んだ衝撃で、船体に穴が開いている。

人工的な光があなたを輪のように取り囲み、暗闇の中で墜落現場を照らし出している。
向こうに人影ができていて、皆こっちを見ている。


人影がひとつ歩み出て、あなたのほうへ近づいてきた。

人影はかさばる格好で、二本足で立っている。
顔はマスクのようなもので覆われている。

こっちへ来いと手招きしている。

何か急に宇宙生命体SFに!

……待って、それより先に左側の赤光、めっちゃ目に痛いんだけど!?

 右側のメッセージを読もうと画面に顔を近付けると、左側の目にダメージを食らう始末。

この球体がこれほどまでに強烈な光源なのはそれだけの理由があるから別にいいんだけど、でもちょっとは調整させてくれてもいいレベルでは!?

 

 

 

3章『観測所にて』

3章でのプレイスタイルは読解系コマンド入力。

仲間から送られてくるデータファイルの実行に必要なコードをマニュアルから探し出し

PCに打ち込んでちゃんと作動させればOK。

直前の2章がすごく目に痛い赤をしていたので、3章のこの綺麗なホワイトブルーにはほっと一息吐くものがありました。

 

……その綺麗さは観測所の室内だけの話だったんだけども。

章の後半、暴風によって電気ケーブルのトラブルを感じ取った主人公はその修復のために外へと出る。

そこでプレイヤーは初めて自分のいた観測所を外から見ることが出来るんですよ。

私「こんな、こんな場所にたった一人で……?」

室内では他の観測員の声が無線で飛び交っているので孤独感は皆無だったのに、一歩外に出た瞬間に分かる断絶。

ここは北極で、今は嵐で、生きている人間もこれから死ぬかもしれない人間もただ一人、自分しかいない。

 

死と生存を隔てる小屋がこんなにもちっぽけだったことに私は唖然としたし、同時にすごい怖かった。

急な一人称視点移動で酔いを警戒したことも相まって、目的地まで行く時点でほぼ半泣き。

この簡素な柵や階段がまた妙に切なくて泣きたくなるんだよね。

少しでも死を遠ざけるために、自分より前の調査員が必死で作ったであろう人類文明の微かな爪痕。

それがあの小屋と同様に、あまりにちっぽけなものだから……。

 

 

4章『最後の治療』

4章は1~3話の舞台がなぜああいう風だったのかの種明かし回。

まず初め、各話の冒頭に絶対流れていたタイトルムービーを誰かが「さ、今はその辺にしておこう」とぶった切ってきたとこに息を呑みました。

その誰かっていうのは主人公の主治医で、主人公は精神科病棟で治療を受けている患者ということが判明する。

で、主人公は記憶喪失になっていて、その原因を先に言ってしまうと、自分がやった飲酒運転の事故によって同乗者の妹が死に、同じく死亡した相手の運転席に自分が飲んでいた酒の瓶を投げ込んで、罪をなすりつけようとしたから。

これまでの話は主人公の脳内で起きた妄想というか、彼の脳の記憶処理に付随する想像上の場面だったんですね。

 

そこからプレイヤーはおさらいのように1~3話までのギミックをもう一度やることになるんだけど、そこで「そのステージを構成するに至った出来事は何なのか」が次々に明かされて、「あ~~~~……そういうことだったの……」と唸る伏線回収は圧巻。


1話で重要なキーワードだった「1986」は事故を起こしたのが1986年の大晦日だから。

2話で心臓に電流を流したり箱にドリルで穴を開けたのは、事故で重症を負った主人公に対して行われた医療的措置。

3話で雪に覆われた山道を歩かされたのは、事故現場が凍りついた道路の上だったから。

 

他にも細かいポイントはたくさんある。

例えば2話に事故で不時着した宇宙船っていうのは直接的に車の言い換えだろうし、あの目玉みたいな機械が複数あって連携してたのは、別部屋で同じ精神科病棟に入院する仲間というか患者を表しているんじゃないかな?

さっき引用した「人工的な光があなたを輪のように取り囲み、暗闇の中で墜落現場を照らし出している。向こうに人影ができていて、皆こっちを見ている」っていうのは警察が到着し事故が露見した状況そのまま。

あの球体が異様に強い光を放つのも、それは車のヘッドライトだからであり、また同時に死んだ妹がこちらを見つめる眼差し、主人公の罪悪感の象徴なんだと思う。

知ってるわ。

自分だけ助かろうと、あたしを見捨てたよね?

 

3話で変換マニュアルだった書類が「ウィルソン警察 交通事故報告書」になってるのも細かい!

あんまり英語圏の人の声の聞き分けに自信が無いから断言出来ないけど、たぶん南極基地の女性メンバーの声って妹と同じだよね。

 

事故の非は100%主人公だけにあり、でも1986年なんてまだ飲酒運転の罰則も何もない頃でしょ?

現に両親だって「酒飲んだんだから気を付けて運転しなよ」と軽い態度で兄と妹を送り出してる。

それが事故った瞬間に「こんな事になるなんて」と泣き叫び始めるのは、何とも言えない気持ちになります。

飲酒運転の加害者なんて全員が「事故なんて起こさない」と本当に、本当に思ってるんですよね……。

 

 

タイトルとキャッチコピーの意味

今作のキャッチコピーは「4つの物語と1つの悪夢

妹が手を替え品を替え何度も登場してくるのは、彼女の死こそが悪夢だから。

でもそれは現実であり、覚めることないままずっと続く。

 

またタイトル、「Stories Untold」の直訳は語られなかった物語。

あの捨てられた家で、あの箱の前で、あの南極基地で起きた出来事は、彼のためだけの物語であり、今後の人生で彼がそれを口にする事はたぶんないはず。

でも語られないままそこにある。

彼の内にだけずっと、彼が生きている限りは永遠に。

 

その咎は彼がやった飲酒運転の代償であり、同情の余地なんて一切ない。

だけどプレイヤーは彼がどれだけ真実を認めたくなくて、認めるのが怖くて怯えていたかを分かっているはずです。

現実を捻じ曲げて変換し、必死で働かせた自己防衛本能を「ざまあみろ」と嘲笑することは、彼の内面の実情を知らない人からしたら当たり前に出来ることなんだけど、でもプレイヤーにはきっと出来ない。

彼の否認と自責で構成されたステージを、彼と一緒にクリアしてきたプレイヤーには、どうしても。

 

そのジレンマを生み出すために、今作はゲームという体裁を取ったのだと思います。

彼の意識と自分の目を同化させるインタラクティブ。

ゲームという媒体が一番優秀に出来ることを、私好みの最高の形で見せてもらえました。

この体験を3時間980円で味わえるインディーズゲームってやっぱり超すごいよ。