Humano&ashi_yuriさん制作『The dog you pet is your dog』というフリーゲームをプレイしました。

プレイ時間は15分でED数は10。
スマホのブラウザでもプレイ可能かつ、1~2分で1EDに辿り着くので「ミニマルノベルゲーム」と銘打たれたのも頷ける手軽さ。
あなたと、あなたと散歩中の犬は道端で何かを見つけます。
ランダムに落ちているアイテムのどれを拾うかでEDが分岐するというシステム。

拾えるものは骨だったりリードだったり、いい感じの棒だったり虚数の概念(!??)だったり。
可愛らしくほのぼのとした雰囲気をベースに、ふとした瞬間で死やSF展開に分岐する。
一つの選択肢で一つのEDに辿り着き、かつその結末のジャンルががらっと変わる、サウンドノベル好きにはたまらないゲームでした。
ただどのEDのどの終着点でもわたしは犬を愛し、犬はわたしを愛し続けることは変わらない。
その確立した愛に涙腺が緩むこともしばしば。
という訳で以下、自分が特に好きだった4つのEDのネタバレ感想。
ネタバレ感想
私がプレイを開始して一番初めに拾ったのが「虚数の概念」であり、辿り着いたのが「√iの角度で撫でる」の『Void犬』。
もうこの一撃で私はこのゲームにメロメロでした。

あなたは犬を√iの角度でわさわさ撫でます。
犬の質量が消え、色が反転します。
犬は虚となり、情報となりました。
質量と感覚はなくなりましたが、それは紛れもなくあなたの犬です。
撫でると目を細めて喜びます。
振るしっぽの速さもふり幅もまったく同じです。
可能な限り正確にシミュレートされたあなたの犬は不変で永遠です。
犬を投影するプロジェクタとサウンドを再現するスピーカーが繋がったマシンがぶぅんと鳴ります。
どこまでも続く0と1の文字列の数が、犬となってあなたを見つめます。
あなたは犬を撫でます。
反転したその白い瞳はなにも変わらずあなたを映して輝きます。
SFホラー幻想小説じみた展開が大好き。
肉体から脱しシステマチックな情報になった犬との間に「愛」が保存される。
命の温もりはなくても愛の温もりがあるそのなでなでは、傍から見たらただ虚空を撫でているだけの珍妙な動きなんだろうけど、でもわたしとわたしの犬との間ではちゃんと成り立っている。
0と1の数字になった犬をそれでも愛する飼い主の心を、プレイヤーの中でも再現しようとしている文章で良き。
ちなみに「iの角度で撫でる」と『犬は去ぬ』EDになり、こちらは犬からの愛の方が強め。

あなたは犬をiの角度でわさわさ撫でます。
犬の存在値がゼロとなりました。
もう犬を撫でることはできません。
あなたは犬を撫でたことを思い出します。
ただよう空気のなか、そよぐ風のなか、見渡す空のなか、あなたの記憶のなか、犬は偏在しています。
犬は消えました。
不在のなか、犬はあなたを愛しています。
千の風になってあの大きな空を吹きわたっているんですか?という冗談はさておき。
ED名の『犬は去ぬ』がめちゃくちゃいい味出しているなと思います。
「去ぬ」が去らないという意味での「去ぬ」と犬の「いぬ」、不在の「居ぬ」がダブルミーニングならぬトリプルミーニングになってる。
こういうユーモアのあるタイトル付けってセンスというか才能の一種だよね。
あと最後の一文の切れ味がいい!
「不在のなか、犬はあなたを愛しています」、何度読んでもうるっときちゃうな。
最後の一文が良いといえば、「いい感じの棒を後ろに投げる」と辿り着く『いつまでも』EDもそうかも。

棒をうしろに投げると、軒先に落ちました。
棒を拾おうとしゃがむと、屋根から瓦が落ちてあなたの後頭部に当たりました。
あなたはしにました。
犬は近所の夫婦に引き取られました。
犬はしあわせに暮らしています。
犬は生まれたばかりの娘さんの遊び相手となり、一緒にゆっくりと年を取っていきます。
時に娘さんと楽しく遊び、時に庭先の不審者にはげしく吠え、犬は立派で素敵にくらしています。
犬小屋の奥にはあなたの靴とリードがしまわれています。
犬はあなたの帰りを待っています。
泣いちゃうよ~~……。
飼い主の死に方が全ての不運を吸い取ったように、犬は立派で素敵に、しあわせに暮らしている。
それでも犬はずっとわたしのことを待っていて、待っていて……。
こんなにも賢い犬が人間の死を察していないなんてことは考えにくいけれど、それでも再会を待ち望んでいる。待ち望み続けている。
その叶わない願いは切なく、それでもあたたかいものだから涙が出るんです。
「犬小屋の奥にはあなたの靴とリードがしまわれています」の一文もすごくいい。
今の飼い主夫婦の人柄の良さが端的に表されているのと同時に、元飼い主であるわたしってここまでしてもらえる人だったんだという手応えが嬉しい。
ただ一番私の癖に刺さったのは「青いリード」をひろう『骨を見つける』ED。

よく見ると、地面の上にうっすら白いなにかが見えます。
それは犬を抱いた人の骨でした。
一人と一匹は、まばらに草が生えた土の上でずっと眠っています。
その人間の骨は、どこか見覚えがあるような気がします。
犬があなたの頬をぺろりと舐めました。
「どこか見覚えのある骨」が何かといったらわたしとわたしの犬の骨以外に他ならないでしょ。
こういう風にすっと自分の死体と邂逅する唐突ホラー展開が刺さる心をしているんです。
「白いなにか」と言いつつ、骨のビジュアルは蓄光の燐光めいた蛍光グリーン色をしているのがまた不気味だ。
何か薄っすらと発光していませんか?土の上ではなく闇の中で。