switchにてガールズトーク・ツーリングADV『ガールズメイドプディング』をプレイしました。

クリア時間は3時間45分でED数は1。
「誰かに見られていないと消えてしまう」世界で、誰もいなくなった世界を2人の少女がバイクに乗って共に旅をするというお話。
まず一番感心したのが、バイクを進めている分だけ文章が進行するという物語の読ませ方。

バイクが進めば会話が進み、バイクが止まれば言葉も止まる。
頬に受ける風、髪を揺らす風、そんな風に乗って生まれては消える喋り声。
風を音ではなく文章の表示形式で描いてきたことが衝撃的でした。
ガールズトーク・ツーリングADVとはどういうものなのかが開始3秒でもうプレイヤーに理解させているのが素晴らしい。
コンセプトの勝利だしデザインの勝利だとも思う。
その上で、一番初めの冒頭で表示されるのが
森は静かだった。でも、森が静かなのはきっと以前と変わらない。
初めて来る場所だけれど、地元の田舎と少し似ている。
もう、ここがどこなのか意識することも多くない。
ずっと遠くまで来てしまった。
という旅情と哀愁に満ちた文章なのが最高。
「来てしまった」、来てしまったですよ……。
旅の道中、お互いがお互いから目をそらして消えてしまう展開もあるんだけど、そこでの文章もお気に入り。

そこには、誰もいなかった。
スミビ「ニコミ?」
呼んでも、返事はなかった。
一つ、風が吹いた。
そこにはもう、スミビもニコミも誰もいなかった。
バイクだけが、いつまでもエンジンを震わせている。
また今作の魅力の大きな部分を担っているのがイラストレーター:ずもち氏によるイラストとキャラデザ。
steamのストアページで見られる主人公二人のキービジュアルがまた最高に良くって!

サンドイッチを食べている頭プリンの白髪ロン毛の女の子がスミビで、猫耳メイド服の子の方がニコミ。
この2人がね~~~、手を繋いでいるのが最高なんですわ!
お互いの視界の中にいないと存在が消えてしまう世界で、2人とも「最初の頃は、ずっと手を繋いでいないと不安で動けなかった」と言っている。
不安な時は手を繋いで、眠る時も手を繋いで。
だからこの2人の一枚絵はswitch版のタイトル画面の一枚絵よりも前、旅を初めた初期の頃なんじゃないかなと察しが付く。
ニコミのどこかぼんやりとした表情にお互いをここに留めるように握られた手首、その細さがあどけなくて痛々しくて大好き。
猫耳メイドの両手・両腕に絆創膏が貼られまくってるのも不憫可愛いよね。
スミビとニコミの関係って百合かと言われたらまあ百合なので、百合を求める百合オタクにも優しい。

【ニコミ】
ずっと一緒にいられたらいいね
いつか、全部思い出になる日まで
挿入歌というか主題歌もそんな感じで爽やか系百合。
この曲が道中で拾えるカセットから流れ出した時には鳥肌立っちゃったよ。

それぐらい『二人だけの物語』という曲に合わせた演出がバチッとハマっていて格好良かったです。
お腹が空いたら料理をし、

夜になったら2人で眠る。

(↑寝る前にニコミが読んでいる日記という形で、1日の会話を振り返れるのがかなり助かる。ツーリング中だと聞き流しちゃう部分も多いから)
翌朝に目が覚めたら、朝靄の中をバイクで走り出していく。

たとえこの世界に誰もいなくても、仕事もなくていつ寝ていつ起きてもいい生活でさえ繰り返される一定のサイクルが、彼女達の命を伝える。
命とは結局、食べて寝て起きてまた食べての繰り返しなのだと知らしめるようなシステムが好印象でした。
日が沈んでも寝ずにバイクを走らせていると、視界があやしく紫色に染まっていくのも、電気の一切ない深夜を演出していて好き。

疲労を色収差で表しているのを見たの、クトゥルフホラー釣りADV『DREDGE』以来だな……。
でも夜が異世界じみている分、真昼の空気は穏やかで爽やか。特に海沿いのツーリングは格別でした!

視覚化された風が気持ちいいのよね。
以下、他キャラの登場と物語ラストのネタバレ注意。
ネタバレ感想
ゲームを進めるにつれ、スミビとオキビ以外のキャラも2人登場する。
まずは人魚めいたデザインのマリネちゃん。

マリネ(海水に食材を漬ける保存方法)の語源は海を意味する「マリン」なので、人魚っぽさがあるのは当然のことかも。
確かに彼女の初回登場と別れは、泡となって消えゆく人魚姫めいていたしね。
マリネがこのあと、どうするのだろうとスミビは思う
まったく知らない場所に行きたくて、バイクに乗ったのかもしれない
知りもしない、誰もいない場所で、ひっそり消えるために
そんなスミビの感傷とは全く無関係に、再登場してくれて安心しました。
彼女が幼馴染の友人を想うやわらかな気持ちにも感動したし。
あの子が都会に行くなら、私はあの子が帰ってくる場所であろうって思ったのかも
大変な仕事みたいだし、知らない場所で寂しいだろうし……
一緒には行けないけど、いつでも帰ってきていいよ、みたいな
そうやって帰ってくる場所であり続けることが、一番の応援になるって思ってた気がする
作中ではこの友人の性別までは言及されてないけど、まあ十中八九女の子でしょう。
個人的は次に登場するヤキメのことだと思っていたんだけど、そこまでは言及されませんでした。
マリネとヤキメ(焼き目)で対になってるし、何か関連はありそうだけどね。
もう一人の登場人物、ヤキメはこの世界の真相を明かしてくれるいわばキーパーソン。

この世界では視線で感染する病気が流行り、その病気の対策として人々の視線を撹乱する「力場」を各地で設置。
人工衛星やら何やらで設置されたその力場が不具合を起こしているせいで、人々はお互いを認識出来なくなっている、というのが今作の真相。
そしてヤキメはその病気を生み出したのが、ずっと昏睡状態のまま入院していた自分の姉だという。
そこには、何年もの間、修正されずに煮込まれた現実がある。
きっと、その夢の中で病原体は生まれたんだ。
そして姉貴が目を覚ましたとき、視物を介して他人に伝染し、『現実』になった
何年も一人きりの世界で生きていた姉貴にとって、それは確かな『現実』で
目を覚ました姉貴が、外の現実をすぐには受け入れられないように
姉貴の現実に晒された他人も、そう簡単には否定できんだろうと……そう想うよ
ここら辺の情報開示は楽しかったです、割としっかりSFする気があったんだな~。
つまりお互い死んだ訳ではないので、自分と相手の世界を合わせればまた会えるということ。
スミビとニコミも終盤でお互いを視認出来なくなってしまうんだけど、そこからの再会方法が「バイクを通じて二人の世界を一致させる」というところが良かったです。
離れ離れになっている最中、お互いへの思いを自分の中に自覚するところもね。
個人的には淡白そうに見えたスミビの方がよりニコミへの感情の発露がアツいのに興奮したり。

【スミビ】
ニコミと、ずっと旅を続けてたかったんだ
もう思い出せないプリンを作ろうって言ってれば
この旅はずっと続くから
ニコミも同じことを考えるだろうか
彼女は、自分と会いたいと思ってくれているだろうか。
一人になった夜、「毛布をぎゅっと握りしめて、やっと眠った」というところもいじらしくて可愛い。
【スミビ】
……二人でさ、バイクに乗ってただ道を走ってる
なんでもない話をしてる
それが楽しいって思う
それだけじゃ……だめ?
に対するニコミの返答もアツい!

【ニコミ】
いいよ。それでも
こうやって一緒に走ってられるなら
なんだっていいにゃ
そこから流れ出すED曲もまた最高。
本編とは作風の異なる萌え萌え作画だけど、歌っていることは丸っきり本編の二人だし、ED後の二人だとも思う。
食べたら眠る ぐっすり休む
起きたら元気 また進む!君と 君と 過ごす
永遠だった
