復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

1人のダンサーのオーディション前日を描く短編アニメ『I'M SICK!』感想

ロサンゼルス出身のアニメーター:lewis tarver が制作した『I'M SICK!』という短編アニメを観ました。

a dancer realizes she's sick after getting flown out for an international audition.

(あるダンサーがオーディションのために渡航した後、自分が病気であることに気づく)

内容としては上記の概要欄にある一文通り。

 

このアニメはとにかく全カットの構図、色彩が素晴らしい!

私は一番最初の主人公がレッスン会場の受付で体温計を借りるシーンから、このアニメは只者じゃないなっていう予感がひしひしとしていました。


その後も私の予感を裏切らない絵ばかり出てきて震える。


こういう直線的で平面的な構図かつ、カラフルだけど毒気があるカラーの絵、私はすごく好きだな。

ただここで言う病気ってたぶん性同一性障害のことで、それを思うとこの女性的な配色とその濃さに鬼気迫るものも感じます。

 

概要欄には「she」という単語が使われてるけど、声はどう聞いても男だし、主人公の手もどう見たって男性。

手の中にある錠剤も何かしらのホルモン剤なんじゃないかな?

薬を飲んでいる時のカットはひどくサイケデリックで、まるで自分の体には異物となるものを取り込んでいるみたいだし

主人公がバレエシューズの紐を締める時も骨折したんじゃないかってくらいすごい音できつく締めてる。

これは自分の体をどうにか変形させようとしている意志の表れのように映る。

もしかしたら冒頭で体温計が104.2度と異常に高くなっていたのも、ホルモン剤投与による体温の上昇なのかも。

 

ラストが何でああいう終わり方になったのかはいまいちよく分かってないんだけど(全部が夢オチっていう訳でもないよね?)そこに至るまでの色合いの移り変わりがやっぱり私は好き。



輪をかけて極彩色になる世界で、でも肝心のオーディション場は静かな白壁で、その闇の中で線となった彼女は踊る。

ベッドに横になる寸前の彼女がひどく楽しそうで、幸せそうで、そこに胸を打たれました。

今までの苦しみも喜びも全ての感情を体の動きに乗せられる才が、彼女の中核であったことを思います。