ライアーソフトより2002年に発売された『腐り姫』という男性向けエロゲを FANZA DL版にてプレイして、すごく面白かったのでその感想。
雨の降り続く夏の日に、真紅の着物の少女に出逢った。
少女は、腐り落ちた果実の匂いがした――
4日間のループを繰り返す、インモラル近親相姦伝奇ホラーもの(ラストはSF)で、とにかく雰囲気が良いんですよね。
ペン画&水彩で着色されたアナログレトロな背景と、素朴だけど肉感的な線で描かれるキャラクター達を組み合わせた通常プレイ画面が素晴らしくて。
100点満点中100億点!
部屋、カフェ、桟橋、廃墟、湖畔。
その場にいる人達の仕草を描くことで、キャラに立体感と現実感を与えてる。
全てのノベルゲームはこのスタイルが標準でいいのでは?と思うぐらいに好みだった。
作る側はめちゃめちゃ大変そうだけど。
そうして皆が暮らす、懐かしく美しい故郷こととうかんもりが、ループ最終日の8月14日木曜日に必ず、赤い雪の中に埋もれ滅び去っていくのが最高of最高。
初めて最終日を迎えてこの光景を見た時、あまりの美しさにしばし呆然とした。
8月の真夏だというのに、こんもりとした赤い雪に覆われた町並み。
毒々しく蝕まれた風景が、こんなにも静かで美しいことに感動しました。
とても感動した。
この風景画で泣けと言われれば私は泣けるよ。
4日間を繰り返す度、攻略対象である女達も徐々に赤い傷に蝕まれて消えていく。
何度も繰り返す腐敗の中で、少しずつ、少しずつ、本当に大事なものが喪われてゆく。
保存を繰り返したJPG画像が劣化していくのと同じように。
無限の繰り返しが向かう先は不変ではなく滅びだ、という美が好きです。
以下、18禁画像&ネタバレ注意。
まず、主人公が私好みの男で満足。
私好みの男とは、女の闇に呑まれて身動きが取れない男のことです。
純粋な快楽だけが僕を支配して、他は何一つ自由にならない。
なにひとつ……思考さえも。すべての時が巡り会う、その向こうに……
誰が待っている……
その底で、僕は何を見ればいいのだろう……与えられるのは一時の夢。
そして、腐敗と―――滅び。
実の妹である樹里に愛され、縛られ、かなり可哀想な主人公だと思う。
「家族の誰もが、家族の誰かを心の底から愛していたよ。それは確かだ。
でも、父が母を求め、母が僕を求め、樹里が僕だけを望んでいたように。
僕は、この光景だけで、みんなを望んでいたんだ。求めていたんだ。」
という記述があるように彼はみんなが好きで、家族全員でただ仲良く暮らしたかっただけなんですよね。
でもそんな望みが、あんな肉欲が行き来する爛れた家の中で叶うわけがない。
もうね、彼は飼い犬のクロとくっつくのが一番だと思います。割と本気で。
この一枚絵からも分かる通り、彼の望んだ幸福な家族の形を共に分かち合えるのは犬のクロしかいないからです。
一番の友達で、唯一の仲間。
それに勘付いているから、樹里は犬でしかないクロをちゃんと殺したんだと思います。
クロだから、殺したんだと思います。
女キャラで言えば、東京時代のエピソードが良かったのできりこが一番好き。
ただ色気があってグッときたのは、主人公の継母である芳野。
目が不自由という設定で、瞳孔が人間離れしている美しさもあるし(いや、目が見えないとは思えないほど普通に行動してましたが)夫の影を義理の息子に重ね合わせて求めてしまうところに、女の業の深さというものを感じるから。
……なぜ私たちは……ここにいるのかしら……こんな抜け殻のようになって……
BL好き女オタクとしては青磁ルートもめちゃめちゃ良かったのだけど、それより「何でこの2人はとうかんもりを出られたの!??」という驚きの方が強くて萌えるどころではなかった。
五樹と一緒に暮らすようになってから、もう一年近くたつ。
きりこの方は電車に乗った時点で駄目だったじゃん!
もう朝は来ない。
果てしなく続く高楼の中を、どこへ辿りつくことも無く、いつまでも。
女か!?女であることが駄目だったんか!?
とうかんもりから出られる青磁EDに意味がない訳がないんだけど、私ではその理屈を掴めなかった事がこのゲームをプレイしていて唯一の心残り。
男であるというだけで樹里が青磁を見逃すとはとても思えないんですが。
ラストで蔵女のことを破滅の女神と呼び出し、SF展開になった時は「急にどうした!??」と叫んだんですが、慣れてしまえば受け入れられる範囲のジャンル変更かな。
3つあるエンディングのうち好きなのは落果ED。
人ならざるものとなった蔵女と五樹は、星から星を渡り歩きながら生命を喰い荒らしていく。
(『腐り姫』の方がずっと先なのは分かっているんですが、『Fate/EXTELLA』のアルテア編もこんな感じのストーリーでしたね)
その旅がいつ終わりを迎えるのかは分からないけどいつか終わる、でもそれは今ではない。
そんな結末の先延ばし感が好きです。
実際、潤妹EDでも同じようなことになっている。
何百万回目のページをめくるついでに。
何千回目かの精を、潤の中に放った。
ただ、本の糸がほどけて、そろそろすりきれてしまいそうなのは弱った。
ばらりとほどけてしまうのも、間もなくだと思う。本をすべて読み終えてしまったら……
僕はまた同じ文庫の同じフレーズを、読んでいる。
村上春樹かお前は、と突っ込みたくなるモノローグだけど、でもこのモラトリアムを持て余しているような文章が今作の中で私は一番好き。
前述した”無限の繰り返しが向かう先は不変ではなく滅びである”という作品の本質を、本に例えて一番端的に表していると思うからです。
余談。
プレイしたのはFANZA遊び放題でのDL版。
(ちょうどセール中で50%OFFの1500円になっていたから、買い直しはしたんだけどね)
元々『ゴア・スクリーミングショウ』というゲームに興味を持って、FANZA遊び放題に加入したのが今作をプレイしたきっかけでした。
で、なんでそのゲームをやりたくなったのかというと、Twitterで見かけたユカとゴアの描き下ろしタペストリーの絵に一目惚れしたんです。
(引用:BLACK Cyc20周年記念)
この少女×異形の組み合わせ、最高なのでは!?
とすごく興奮し、元々タイトルもグロ系エロゲとして有名なのは知っていたので、凄惨なシーンを期待してプレイし始めた。
……のだけど、めちゃくちゃ綺麗に終わってびっくり。
驚くぐらいまともな話でした。
ただ主人公だけが全く好きになれないタイプの男だったんだよな……。
ヒロイン達は別にいいし、ユカとゴアもかなり好きになれたんだけど、あの主人公だけがどうにも。
という訳で、同じく名前だけ知っていた『腐り姫』の方をプレイしたところこっちの方が個人的には大当たりだった。
結局、女に搦め捕られて堕ちていく男が好きなんです……私は……。