復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

いつも通りの日常を3日間過ごす短編フリーゲーム『As usual.』感想

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プレイ時間15分くらいの、一本道の雰囲気ゲーです。
大音量の脅かしはないので、ぜひイヤホンで!
わりとグロテスクな表現があるので、苦手な方はプレイをお控えください。

引用:(As usual.:無料ゲーム配信中! [ふりーむ!]

せがわさん制作『As usual.』というフリーゲームをクリアして、かなり面白かったのでその感想。
プレイ時間は紹介文にある通り、15分でEND数は1。
一人の男が、いつも通りの日常を3日間すごすだけのゲームです。
1日あたり約5分のプレイ時間で過ぎ、マップも室内と外、2つを行き来するだけのコンパクトな構成。

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私がこのゲームで一番「すごいな!?」と思ったのは、このドット絵アニメーションの細やかさとSEの心地よさ!

顔を洗う、歯を磨く、ご飯を食べる、墓に手を合わせる。
毎日繰り返す行動が、等身高めのドット絵アニメーションで丁寧に描写されているので、「いつも通りの日常」がすごくリアリティを持ってプレイヤーに伝わってくる。

SEもその場面に合わせた心地良い音が選ばれていて、食物を食べる音も、やかんを火にかける音も、飛行機を見送る音も、些細だけれどプレイしていてとてもいい気持ちになる。
私は特に歯を磨く動作と音が好きで、やたらめったら歯磨きをさせていました。

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歯磨きは大事ですよね、あんな世界では特に。

ここから先は何を語ってもネタバレになるので、以下ネタバレ注意!
説明文にある「わりとグロテスクな表現」、個人的な体感としてはかなりグロテスクな方だと感じました。
フリゲー界隈では知名度の高い『ミノニヨクシティ』『END ROLL』『TOWER of HANOI』と同じ制作者なので、ドット絵の臓器表現が苦手な方は注意したほうがいいと思います。
ドット絵のグロ表現が苦手な私でも、短いのでクリアは出来ましたが、4日目があったら無理だったと思う。
ただ、徐々に生活圏が侵食されていく日常系ホラーが好きな人にはおすすめ!
15分と短い時間で、ドット絵と音、2つの面から濃密なホラーが楽しめる良フリーホラーゲームなので、未プレイでこの記事を読んでくれている方は、ぜひぜひDL&プレイしてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ感想

生活圏が日ごとに侵食されていく恐怖

1日目は何てことないごく普通だった室内と外の風景が、2日目に目覚めた時、室内の時点で「あれっ?」って思うわけです。

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あれ、柱と床の隙間にあんな目みたいなのあったっけ?」って。
この時点だと「あれ~、昨日こんな変な感じだったっけ?」ってぼんやり顔を洗って歯を磨いてから、洗濯物を持って外に出るんですね。

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……………(閉口)

比較用に載せておくと、1日目の庭はこんな感じだったんです。

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2日目で、あの有様。
血を啜って生えたような木、水道に絡みつく血管のようなホース、断面が赤く染まる木、何よりあの、翼を生やした臓器のような鳥は何?

2日目の世界を見て、薄々真実に気が付きながらも日課をこなして眠りに就く主人公。そして迎える3日目の朝。

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私「いや、想像以上にグロいな!!?

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地面には血管が走り、柱からは臓腑がこぼれ落ちている。
これが、今まで主人公が薬によって目を逸らしてきた現実の世界で、日々を過ごしていた日常の風景だったんですね。
ゾッとするほど醜悪だし、何より今まで食べていた物は妻の肉で、割っていた薪は娘の体、そしてそれは彼なりの弔いだったと判明する過程が素晴らしいと思います。

 

 

正気で異常な弔いの形

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2日目で写真を見た時や、食事の時、リアルな女と女児の英語音声が流れるところは、一瞬心臓が止まるかと思うほどびっくりしました。
制作者が「ぜひイヤホンで!」と言っていたのはこれかあ~……と。
確かに、これはイヤホンで聴いた方が背筋が凍っていいです。
ゲームの世界に、いきなり3次元が介入してきた時の恐怖は、没入している時ほど凄まじいものがあるので。
写真を見た時に聴こえる「come on , you know」や、食事の席に座った時に囁かれる「Are you hungry?」は、本当にやたらめったら怖かった。

ただ2日目では恐怖しかなかった英語音声が、3日目になると愛しく聴こえるところが、私はすごく好きだと思う。

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化け物が跋扈する世界で命を落とす時、妻は自分の肉体が夫に全て食い尽くされることを望んだし、娘は自分の肉体を全て父親に燃やし尽くされることを望んだ。
だから彼は、毎日毎日、妻の肉体を食べて、娘の体を薪にする。
彼は別に自分の世界で狂っていた訳ではなくて、愛する妻と娘の望みを果たしてやろうと、ひたすら真面目に頑張っていたんです。
その気で異常な弔いが、悲しくて愛しくて、大好きだと思います。

主人公はとても良い夫で、良い父親だったんだろうなと思うんですよ。
でなければ、妻と娘、2人の女が死の間際に、あれだけ重い、呪いにも愛にも似た弔いを要求する訳がない。
歪だったのは、主人公ではなく妻と娘の方で、でも妻と娘をそうさせたのは、化け物に侵略された世界の方で。
だから主人公は、こんなにも気が触れた愛を全うするため、薬を飲んで世界の方を誤魔化すしかなかった。
どうにも割り切れないやるせなさが、この作品の醍醐味だと思います。

 

その他小ネタ

セーブ画面で一日一つずつ、薬が減っているのは細かいな~と思いました。

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 薬の残量が減るにつれ、彼が(悲しいことに)正しく世界を捉えていく様に胸が痛みます。
でも「1  48」の数字って何だろ?
プレイ時間は1時間48分もないはずだし、日付でもなさそうだし。
私が気付かなかっただけで、何か意味があるのかもしれないです。



恐怖も愛も悲しみも切なさも入った濃密なプレイ体験で、本当に15分だったのか信じられないくらいだな。
改めて思うけど、やっぱり主人公である彼の悲しい正気さが好きだなと思います。
こんな異常な世界で、ずっと彼だけが正気だった。
真面目で、優しく素敵な夫であり父親であり、誠実な男だったから、こんな惨劇を呈すはめになっている。
その不条理さが、すごく、すごく好きです。