復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

フリーゲーム感想3つまとめ kiji「ブルースクリーンの恋人」「悦びの檻」

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製作:kiji「ブルースクリーンの恋人」というフリーゲームをプレイした。
それがかなり私のツボに入るゲームだったため、立て続けに同作者製作「悦びの檻」を遊ばせてもらった。
小説家と同じように、一度好きになった作者追いを出来る所が個人製作ゲームの利点だと思う。
ブルースクリーンの恋人」は、機械(マシン)との切ない交流に涙し
「悦びの檻」は、ひたすら耽美かつサディズムの匂い香る男達に萌え
三者三様、漂わせている雰囲気は違うのだが、私はどのゲームも最上級に気に入っている。
どれも10分〜40分程度で終わるボリュームなので、気軽に再プレイ出来る点もいいところだ。
ではでは追記から個々のゲーム別&ネタバレ感想。

 

 

 

ブルースクリーンの恋人

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しかし 私 持っている こころ
プレイ時間約10分。2周目からは3分程度。
ブルースクリーンWindowsにおいて、OSに何らかの異常が発生した祭に表示されるメッセージのこと。
<ストーリー>
What is 'I' ?
青画面に表示された白文字。
クラッシュ寸前になって訪れた、僅かな機械と人間の交流時間。
機械はどんな文字を表示し、人間はそれをどう受け取るのか…みたいなノベルゲー。

 

短い時間ながら、かなり面白かった。
まず一人称や二人称、言葉の意味をタイピングし教えてあげるというギミックの発想に唸らされた。
冒頭の質問に「わたし」「僕」「自分」とどんな一人称タイプし教えるかで印象が大幅に変わってくる。
自分の場合、一人称は「私」二人称は「君」と打った。
だから「I am a software.」は「私 am a software.」だったし
you use I」は「君 use 私」という、どことなく礼儀正しい人柄を思わせる文章になった。
どのような人物像を、自分は機械に見出したいのか。
そこらへんがモロにバレる仕組みが凄いし、日本語が持つ意味の幅広さを改めて感じた。
これを「わし」とか「お主」とかにしたら、また違った読後感になるんだろうな。
あと、教えた言葉をすぐに使って返信してくれるところもいじらしかった。
3歳児に言葉を教える親の心境ってこんな感じなのかな…と想像するぐらい。

 

個人的にグッときたのは「you remember a lot of things?」の一文。
君 remember たくさん things?」と表示された文字に涙腺が緩んだ。
普段はサブのノートPCでネットサーフィンやらブログを書いたりしているが、フリーゲームをプレイするのは初代のノートPCでやっている。
これがまあ年代物で。幅は厚いわ、重いわ、排熱はすごいわ、音もうるさい。
でもそのPCがなければ、今の私は無かった。
どれほどのことを、あのPCが画面に映し出して、私に教えてくれたか分からない。
ありがとう、と言いたいのはユーザーだった私の方だ。

 


悦びの檻

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私は男に抱かれたまま、人の喉の柔さを思い出す
プレイ時間30分。クリア後には文章一覧機能が出るので、周回は10分ほど。
<ストーリー>
躯体を失くした男の前には6つの檻
そこに囚われているは6人+1人+1人の男
鉄茨の、首輪の、緊縛の、足かせの、手吊りの、犬口輪の青年達。
彼は自身の部品を求め、檻の中へ踏み出していく…みたいな一本道ノベル。

 

ただただ耽美な文章に酔った!!
幻想小説大好き腐女子の私にはこれ以上ないだろ、ってくらいのクリティカルヒットだった。
プレイ開始1分後、上記のメニュー画面でもう「私、こういうの大ッ好きだぜ…!!」と呟いたほど。
黒背景に浮かび上がる、端正な白文字。
そこに踊るサディスティクでマゾヒスティックな文字の数々。
面白いというより、何よりまず雰囲気が好み。好き好き大好き。
目隠しをした看守も、八の字首輪で繋がれた兄弟も、血だまりの餌皿も、男の血で崩れる鉄の茨も、足を焼ききる口紅も。
展開に用いられるキーワード、全てがツボだった。

 

物語の結末&カーテンコールも好きの一言。
結局のところ主人公は一人でいけない遊びに耽っているだけだ。
だからこそ、あそこまで深い悦びを得ることが出来たんだと思う。
きたない自分の本性を それと向き合うことを 忘れたその時にまた
 ずさんな舞台で 不格好な精神で あの血なまぐさい一人芝居をする 
 そうやって生きてゆく
自分を罰するのって、はっきり言ってめちゃくちゃ気持ちいいもんな、分かるよ。
「自分を責めるのはやめよう!!あなたはそのままで幸せ!!」なんていう自己啓発が幅を利かせがちな現実はともかく、文学において、自罰と快楽は直結しているように思う。
よってこの作品をプレイしてる時のテンションは「自己嫌悪楽しーーーー!!SM最高ーーー!!もっと痛めつけて、もっと気持よくさせてーーー!!」というハイなものだった。
楽しかったです、本当に。

 

ちなみに文章で言えば上記したものの他、
えいりな茨の中で 自分を傷つけながら 汚い血から守っていたのは 私も同じだ
あす あさって というものが 今 死んでいる 私の目の端に
さみしいのかい 旦那」あたりがドツボだった。
旦那っていう呼び方に弱いんだよなー、昔から。

 

感想とは直接関係ないが、内面分裂し自らを罰し続ける男…みたいな話になると思い出す小説がある。
山尾悠子の短編「私はその男にハンザ街で出会った」だ。
雑踏の中をひとり無防備に歩いていた時、脇道から偶然あらわれたかれの遠い横顔を―
 少しも新鮮さの失せない、衝撃を持って見る私自身を自覚した。
 深夜、雨でずぶ濡れになったかれが、泥酔して劇的に部屋へ飛び込んできた時は恐ろしかった。
 私の膝にすがってかれは長い懺悔をした。
 私はただそれを聞きたくないがために、自分の動悸を数えていた。
 私自身がいつかれの膝にすがりつくことになるか、それは時間の問題だと思われたのだ
月に濡れた舗道から顔をそむけ、影に呑まれて、われわれの胸は触れた。
 奇怪な接吻のあいだ、ただ純粋な恐怖がわれわれの歯を鳴らした
立っている男と横たわる男はどちらもかれであると同時に私であり、そしてふたりの顔は同じだ
夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

夢の遠近法 山尾悠子初期作品選

 

 

以上、kiji製作のフリーゲーム2つまとめて感想だった。
この3つ、どれも時間を忘れて楽しめた、お気に入りになるゲームばかりだった。
ただやはり3つもまとめると長くなるなあ、今度からは少なくとも2つまでにしたい。
後、他作品の引用も程々にしたいのだけど…好きな文章タイピングするの楽しいからしょうがないね…。