復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

和風伝奇胎内回帰カニバリズムホラーフリーゲーム『あてす宣教師日誌紙片』感想&考察

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ポルトガル人宣教師から見た日本の山村の因習。
ライトなホラーノベルです。一部、R18要素を含みます。

引用(https://tick-tack.booth.pm/items/2521102

T-fk-Tack^2(笹笠箕範)さん制作のライトフリーホラーノベル『あてす宣教師日誌紙片』というのをプレイして、中々に興味深かったので感想を書いておきます。
プレイしたきっかけは、以前に同制作者のフリーゲームをプレイしていて、そのゲームがすごく好きで感想やら何やら色々と書いていたため。要素としてゲーム配布ページに挙げられているのは、
R-18ホラー” "和風" "カニバリズム" "胎内回帰"。

いや~~~~………めちゃめちゃ好きです!!!
こういう和風伝奇カニバリズムホラー!!!

人生の一時期、ホラー小説にハマった経験のある人間、もっと言うなら角川ホラー文庫主催の日本ホラー大賞を好んで読んでた人間、つまり私みたいな人間にはドツボの話でした。
分類するなら、飴村行『粘膜人間』とか、最東対地『夜葬』とかのタイプかな?
圧倒的な人外の怪異によって、人間の肉体が著しく損傷されてゆく様を楽しむ肉体破壊系ホラーというか。

粘膜人間 「粘膜」シリーズ (角川ホラー文庫)
 
夜葬 (角川ホラー文庫)

夜葬 (角川ホラー文庫)

 

 

ボリュームとしては全3章からなる5分程度の掌編。
ただその中に色々気になるキーワードがあって、そこについて調べるのがすごく楽しかったです。
ジャンルとしては全然違うものの、プレイ後感としてはフリーゲームの『えけり』にも近いかもしれない。
本編を楽しんだ後、色々と自分で検索かけて調べてまとめるところにも面白みがある

という訳で、以下ネタバレ考察注意!!
今回は感想ではなく、作中に出てくるワードについての考察なので、プレイ済みの方以外が読んでも面白くはないと思う。
ただこの作品、万人に薦められるかというと………その……………カニバ&胎内回帰がいける人は好きなんじゃない………かな………?
少なくとも、私は大好きです!!
和風伝奇胎内回帰カニバリズムホラー最高~~~!!!

 

 

 

 

 

 

 

 キーワードの整理

作中に出てくる単語のうち、元ネタが分かるものと分からなかったものは以下の通り。
この内、元ネタが分かるものについて多少調べた知識を書いておきます。

・元ネタが分からなかったもの(本作の造語、もしくは私の不勉強による無知)
「日達地区」「江梨村」「印場家」「巡り女」「でなし」「わたりべ」
(※2021/1/31追記  制作者である笹笠箕範さんから解説頂いたので、記事末にまとめておきます)

・逆にこれが元ネタかなと推測のつくもの
「あてす / 虫の様な人の様な異形 / 生殖器のない人間の姿」「胎蔵界曼荼羅 / 12人」「塞の神信仰」「をちみづ」


あてす
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 今作の主人公こと、宣教師のあてす。
デウス様の御加護を」という発言と
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主の光臨を見る目と、聖句を聞く耳を、ここまで蹂躙した存在を許せない

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という発言から、キリスト教の宣教師なのは間違いないはず。
『あてす』というのは、アッティスが変化したもので、このアッティスというのはギリシャ神話の死と再生の神、『Attis』に確定でいいと思う。
そもそもアプリケーションのタイトルも『Attis』だしね。

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アッティスAttis)は、フリギアを起源とする死と再生の神の一つであり、
(略)
ローマで大地母神として知られたフリギアの女神キュベレーの息子かつ愛人である。同時に去勢された付き人であり、ライオンが牽引するキュベレーの戦車の御者でもある。彼はキュベレーの手で正気を失い、自ら去勢した。

引用(アッティス - Wikipedia) 

ここで重要なのはアッティスが去勢された、死と再生の神ということ。
「わたりべ」が「虫の様な人の様な異形」、「でなし」が「生殖器のない人間の姿」をしているのは、この”去勢”というキーワードが影響しているのかな?
ただ、「わたりべ」と「でなし」に出会い、そして殺されたであろう宣教師がこの神の名前だったからといって、わざわざ「でなし」と「わたりべ」が異教の神に要素を寄せてくる必要はないので、あくまで示唆というか匂わせの部類だと思う。

 

胎蔵界曼荼羅

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「でなし」のいた家屋の椅子に彫られていた、「胎蔵界曼荼羅」。

大日如来の慈悲を表現した「胎蔵界」<br><small>おさえておきたい曼荼羅の基本</small>

大日如来の悟りの世界を表す胎蔵界曼荼羅は、四大護院と呼ばれる12の区画からなり、曼荼羅には描かれないを合わせた13の院に414尊が描かれる。大日如来を中央に描く蓮の花を中心に、同心円状に院を配した胎蔵界曼荼羅は、大日如来の慈悲が放射状に伝わり、教えが実践されていくさまを表している。大きな慈悲で子どもを育てる母胎のようなイメージから、「胎蔵曼荼羅とも呼ばれる。

 引用(大日如来の慈悲を表現した「胎蔵界」おさえておきたい曼荼羅の基本 | Discover Japan|ディスカバー・ジャパンー日本の魅力再発見ー

「でなし」が12人だったのは、この胎蔵界曼荼羅が12の区画よりなるからだったのかもしれないし、「大きな慈悲で子どもを育てる母胎のようなイメージ」は、言葉通り本編第3章の「をちみづ」祭祀を象徴している気がする。
………いや、本編はそんな聖なる雰囲気では全然ないんだけどね!?

胎蔵界曼荼羅真言密教に関するものなので、江梨村の信仰は基本的には真言密教がベースにあった可能性が高い。
キリスト教の宣教師であるあてすが、「エナシ村にての布教活動の効果は不調である」と言ったのも致し方なしというところかな。

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で、真言密教の思想って根本的には「即身成仏」なんですよね。
死後に仏になるのではなく、誰でも現実世界のこの身のままで仏になれるし、救われるという考え方。

即身成仏は、仏教の修行者が「行」を行うことを通じ、この肉身のままで究極の悟りを開き、仏になること。(略)修行者が肉身のまま悟りの境地に達する行。

引用:(即身成仏 - Wikipedia

言葉遊びをするなら、死んではだめなんですね。生きている状態で悟りに至らないと。

キリスト教における死と再生の神ことアッティスや、真言密教における即身成仏の思想、後述する「をちみず」の不死信仰等、和洋折衷の不死要素が魔融合を起こした結果が、「幼女の胎に還り、産まれ、母の肉を喰うことで若返りをする化物」という今作の「でなし」になるのだと、個人的には思っています。

 

をちみづ

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漢字に変換するなら、「変若水」でいいと思う。
乙女ゲー好きなら聞き覚えのある人も多いんじゃないかな、『薄桜鬼』に出てきましたね。

薄桜鬼 真改 風華伝 for Nintendo Switch

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  • 発売日: 2018/09/06
  • メディア: Video Game
 

若水(おちみず、をちみづ)とは、飲めば若返るといわれた水。月の不死信仰に関わる霊薬の一つ。人間の形態説明の一部としても形容される。西洋のエリクサー、中国の仙丹に当たるものである。

引用:(変若水 - Wikipedia

「でなし」が月の光を求め、月光に当たらないと一晩で全滅したのはこの「をちみづ」の要素からの影響かな?
ただ本作では祭祀の名前という使われ方をしているので、変若水という霊薬そのものが登場する訳ではないのよね。
まあここで重要になるのは、月の満ち欠けに見出せる若返りの要素かなと思う。

欠けては満ち、満ちては欠ける不死なる光の繰り返しに、必ず滅びる人間の肉体を無理に合わせようとするから歪みが出る。
その歪みを全部幼女になすりつけてくる「でなし」の存在が、醜くて理不尽で、まさにホラーという感じでいいですね。

 

塞の神信仰

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塞の神……村や部落の境にあって,他から侵入するものを防ぐ神。
引用:(塞の神とは - コトバンク

「巡り女」が「塞の神信仰」に似てると例に上がってるだけなので、特に深掘りする必要もないはずだけど、実在する信仰なので書いておきます。
 
 

 

以上!
私なりに『あてす宣教師日誌紙片』という作品を解釈してみたけど、これが合ってるのかどうかは分からないし、というか大部分がこじつけの部類だろうし、でも別に間違っててもいいんだと思います。(勿論、あまりに見当違いな事を書いていたら訂正しますけど!)

今作に出てくるキーワードについて自分で色々調べて、”和洋折衷の不死要素が魔融合を起こした結果が今作の「でなし」であり、不死を求める過程で生じる歪みを、何も知らない幼女になすりつける「でなし」の醜さが今作の面白さ”だと自分なりに言語化出来たことに満足してます。
そんな風に、プレイヤーが考察&解釈する余地を残していてくれた、このゲームの懐の深さに感謝を込めて!
すごく楽しかったです、ありがとうございました!

 

※2021/1/31 追記 

制作者である笹笠箕範さんから、今作の造語についてTwitterで解説頂いたのでまとめておきます。

日達地区』(ひだちちく)
産後の肥立ち(ひだち)から連想。

 

江梨村』(えなしむら)
現在の岐阜県恵那市(えなし)は、天照大神が誕生した時の胞衣(エナ。胎児を包む膜と胎盤)を収めたことに由来。

 

印場家
造語。古文書などに蔵書印を押される場面、という非常に単純なもの。

 

巡り女
塞の神」が村への悪霊邪鬼の侵入を防ぐため村境などの境界に祀られる神であるため、村は結界の中の小宇宙ともとらえられる。これに閉鎖空間で不死生命を繋ぐサイクルに利用される、巡るための贄の女として想起。

 

でなし
「ひとでなし」には違いないが、更には何でもないので「でなし」のみにした。「をちみづ」と月の関係は深く、その持ち主を月に桂の木で作られた屋敷に住む桂男(かつらおとこ)とする説があり、作中では連中の居場所の目安として桂の木を登場させた。

 

わたりべ
語り部(かたりべ)」と、不死へのサイクルを「渡らせる」、この二つを単純に合成した。

引用:(https://twitter.com/trade_sasagasa/status/1355542162524565505

江梨村の恵那市と桂男には自力でも辿り着けたはずなのに、辿り着けなかった自分に「悔しい~~~!!!」と思いますね!!!

岐阜に恵那という地名があるのも知っていたし、
恵那峡ワンダーランドという遊園地があまりにも人が来なくて有名なんです。日テレでマツコデラックスと関ジャニ∞村上信五がやってる「月曜から夜ふかし」という番組でも特集されていたぐらい)

山の中の一本の桂の木の辺り」では、「なんか桂に意味とかあるのかな?」と引っかかってはいたんです。

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桂か~~~、月と桂、何で気付かなかったかな~~~。
月桂樹(ローリエ)も知っていたし、月岡芳年の『つきのかつら 呉剛』も知っていたんだけど、桂男までは思い至らなかったな。

Yoshitoshi - 100 Aspects of the Moon - 26.jpg

桂男(かつらおとこ)とは、中国の神話においては月に住んでいるとされる伝説上の住人、または日本の妖怪。前者の意味から「桂男」は「美男」のことをさす慣用句としてもつかわれる。

引用:(桂男 - Wikipedia

………精進します!