汽車で隣り合わせた青年と喋るフリー乙女ゲーム「蝶~再演」ネタバレ感想

 

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https://www.freem.ne.jp/win/game/22211

制作:Sinilintu(敬称略)の和風ファンタジー乙女ゲーム「蝶〜再演」をプレイしました。
良かったです、すごく良かった……!

 

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■ゲーム紹介文

目が覚めた私は周りを見渡した。
見覚えのない――けれど知識としては知っている。
敷かれたレールの上を真っ直ぐに走っていく、これは「汽車」だ。
私は汽車に乗っている――何故?

EDは2つでプレイ時間は30分。
1周が約5分程度と短く、周回を重ねることで真相が見えてくるというノベルゲームならではの特性を活かしたADVです。
私、こういう一つのエンドを迎えるとタイトル画面に戻され、また新たな文章が追加されるのを追うっていうスタイル、すごく好きなんですね。
「この物語はどこまで行くんだろう」って先の見えない感じが。
ページ数が決まっている本や再生時間が分かる映像では味わえない、ゲームならではの感覚という気がします。

内容としては、汽車で隣り合わせた青年と喋るだけのゲームです。
シチュエーションで言えば、江戸川乱歩押絵と旅する男」が一番近いかな。
ただ設定としては、宮沢賢治銀河鉄道の夜」がベースにあると思う。

青年:畠中征四郎「自分の出身地は岩手です
主人公:藤江野蝶子「あら、同じ」という会話がある。
汽車が普及しはじめたという時代背景と、宮沢賢治の出生地も岩手であることを考えると、多少の関連性はあるんじゃないかな?

背後に流れているのもミュージックではなく、列車の音だけというシンプルさが、静謐な雰囲気を感じさせていいと思います。
まさしく一冊の古い文庫本を読んでいるような気分にさせてくれる。
何より、主人公である蝶子と征四郎の関係性がめちゃくちゃ良いんですよ…!!
追記からめちゃくちゃにネタバレを書きまくりますが、
このブログを読んでくれている方は、もう何も言わずにゲームをDLして5周してください!!
そして5周し終わった方のみ、私とこのゲームの良さを語り合いましょう……。
以下、クリア済方向けネタバレ感想。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蝶子と征四郎の魂について

 

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生まれてから一度も、誰かの為に何かをした事が無かった。
求められ無かった、だから与える事も無かった。
与える事を求められる事も無かった。

望まれず生まれ、そこある事すら求められず、ただ曖昧に流されるままに十七年の日々を過ごし、見知らぬ男の手で奪われる私の命の意味とは何なのだ。

生きていればきっと良い事があるから。
両親に貰った唯一つの大事な命だから。
生きとし生けるものは皆、幸せになる為に生まれてきたのだから。

息が苦しい。
私は知らず笑っていた。
後から後から溢れてくる涙を拭いながら、笑い続ける。

本当は知っているんだ。
誰もが知っている、そんな事は。

――人生は生きるのに値しない。

藤江野蝶子……!!!!!(大号泣) 
彼女のこと、ここの文章でめちゃくちゃ好きになりました。
生きたい、幸せになりたいという行為が社会的に褒められ意義のある行為だとしたら、死に向かう心は反社会的思想と言わざるをえなくて、反社会的思想を社会で出したら糾弾されるが当たり前なので皆が言わずとも、でも絶対に知っていること。

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この世で唯一絶対な事、全ての人間を正しく平等にしてしまう物は死だけ。
それだけが何者にも等しく、与えられる絶対にして唯一。

上記の文章を読むに、蝶子は本当にさっさと早く死んで終わりにしたかったんですよね。家族間の虐待や経済的困窮などなくても。

もちろん、両親の自分に対する無関心が生きるということに対する無力感を増長させはしたかもしれない。
でもそれ以上に、彼女の本質が死へと向かうものだった。ただそれだけのことなんだなと思います。


そして、それは征四郎も同じことなんですね。

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つまるところ自分は、この家に住む血を分けた家族という存在が、この世で最も理解出来ず、有り体に言うと嫌悪さえしていたのだ。

生まれ変わりなぞ信じてはいないが、あの世があるとして、この次に生まれて来るならば。

…次に生まれてくるならば?
少し考えて、笑った。
嗚呼可笑しい。こんなに笑ったのは何時ぶりだ。
もしかすると初めてかも知れない。

――二度と御免だ。もう生まれてきてなどやるものか。

あれは生まれながらにして死の匂いに魅了されている、言わば魂の同類だ」と征四郎が言う通り、蝶子と征四郎の魂は似ている。 
生前の体は弱く、家族を愛せず、人生の本質は生よりも死だと、笑いながら気付くところが。

 

だから、だからこそ私は蝶子と征四郎の関係性がすごく好きです。
何もかもを分かち合えるもう一人の自分、魂の片割れを見つけたのなら、もう見失わないでと、強く思うよ。

それは蝶子も同じだ、ってちゃんとプレイヤーが感じられるのもすごくよかった!

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朗らかな笑い声、子供のぐずる声、それを宥める親の声。
人の営み、人の生活。
私達だけが異質で、この声は彼にしか届かなくて。
彼だけが私を見つけて、手に入れて……また手放す。

背中に感じる生暖かい風。
一歩で離れられる。鬼ごっこはおしまい。
これが、最後。だから。

 

蝶子「征四郎さん」
征四郎「はい」
蝶子「貴方の名前を最初に呼んだのは誰ですか?」
征四郎「…………貴方です」

 

蝶子「二度目も私」

蝶子「三度目も。四度目も。私が貴方を呼び続けます」

蝶子「だから、私を手放さないで」

 藤江野蝶子……!!!!!(大号泣)(2回目) 

ここの蝶子、めちゃめちゃ強くて、めちゃめちゃ格好いい女じゃないですか????
畳み掛けるように、征四郎を縛る、縛れる女なんですよ。
確かに蝶子は蝶で、征四郎に捕らわれる立場かもしれないけど、蝶子は征四郎を囚えることが出来る。
お互いがお互いを絡み取ってる関係性ってやっぱり最高に萌えます……。

 

・2つのEDについて

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僕は藤江野 蝶子に恋をしている。
――美しい蝶、やっと手に入れた。

まずは征四郎の策略勝ちエンド。
永劫を共に寄り添ってもらう為には、自ら残ると言わせねばならぬ。」ということで、まんまと蝶子が落ちてきてくれてよかったね……と多少ゾッとはする。
ただこの時の征四郎がヤバい男なら、同時に蝶子も結構ヤバい女になっているのでお似合いなんですよね。

――だから私を捕まえたの?
貴方も寂しかった?

側にいて。
独りじゃなければどこだって構わないから。
私はずっとずっと寂しかった。貴方もそうだった?

人は心に空いた寂しさを埋めるためなら何だってするし、蝶子はその自分の寂しさと征四郎の寂しさを重ねて埋めようとしている。
だからもう二人はお互いに含まれあってしまって、離れられないんだな〜なんて思いました。

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貴方が来た場所へと戻るんですよ。
生きとし生ける者全てが、嘆き苦しみ続ける場所。
人の顔をした鬼の住む世界――現し世です。

けれど人は人の世でしか生きられない。
お嬢さん、今度こそ貴方が幸せを見つけられるよう願っています

もう一つは現世転生エンド。
前述したエンドと本当にめちゃくちゃどちらも好きですが、こちらのほうは藤江野蝶子が生をうとむ心境を、藤江野蝶子の言葉で聞けるのがよかった。

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還る、戻っていく――円環の中へと。
誰もが血の涙をべっとりと流す、あの悼ましくも美しい歪な私達の世界。

唯一誰のもとにも平等に訪れる最後の時を待つ――ただそれだけの為に。

征四郎に手を放されて、今度もまた理解者の誰もいない地獄へ戻っていく後味の悪さがいいですね。

 

その他

今更だけど征四郎、めちゃめちゃ美人じゃないですか…????

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お顔がマジで美の極み。
まぶたの重みまで感じさせる瞳の描き方が素晴らしいし、角が少しだけ透けてるのすごいエロい。
最高、囚われたいですね、こんな美青年に。


あと、征四郎の象徴であろう彼岸花以外に、ツバキがモチーフとして出てくるのは、2人の首を暗喩してるのかな…??なんて思いました。

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首を吊って死んだ青年。首を締められて殺された少女。
首が落ちて死ぬ、別名「首切り花」こと椿。
……まあここまでは考えすぎのこじつけレベルかもしれないです。

 

以上!
蝶子と征四郎が出会えて、そしてこの2人に私が出会えて心底良かったと思います。
例え進む先が闇でしかなかったとしても、もう寂しくないのなら、それは一番幸せなことですからね。