https://www.freem.ne.jp/win/game/22442
制作:六本木(敬称略)のフリーゲーム「えけり」をプレイしました。
めちゃくちゃ面白かったです。
このブログを読んでくれている方はいますぐプレイしてください(懇願)!
59年、沖縄。妹との物語。
■あらすじ
当時学生だった『私』は、夜の教室でチャイムの音で目を覚ましました。
妹との思い出を振り返りながら、時間を操作しながら学校を彷徨うだけのゲームです。
プレイ時間:1時間程度の探索ADV。
あらすじにある通り、『妹との思い出を振り返りながら、時間を操作しながら学校を彷徨う』ゲームなんですが、この時間操作ギミックへの意味付けがめちゃめちゃにすごい。本当にすごい。
画面上部にある時間割にそって、HRから自習、8時から14時までを行き来する意味が、ちゃんとあるんです。
ここまできちんと時間操作ギミックとステージを絡めたゲーム、制作:小麦畑のフリゲー「デンシャ」ぐらいしか思いつかない。
舞台は1959年、沖縄。
沖縄ならではの信仰や情勢、出来事を絡めつつ、妹との関係性を描いているのも素晴らしい。
時代考証がかなりしっかりしているので、台湾の傑作ホラゲー「返校」あたりの匂わせが好きな人はきっと好きだと思うんだ。
あと伏線もすごいんだよね!
周回するたびに気付くことが多すぎる。
プレイ(1時間)→ネットで情報収集(3時間)→2周目プレイ、という感じでやってたんだけど、2周目だと「うわ〜〜〜〜!ここのマップあれじゃん!!」「ここにこれがあるのあれかよ〜〜〜!!!(何?)」と唸る箇所が本当に多い。
とにかく自分で調べることが肝心だし、それがとても面白いゲームです。
説明書の注意書きにも、こうあります。
■必ずお読みください
このゲームはフィクションです。登場する団体や思想、実際にあった事件等とは
一切関係ありません。またいかなる立場や活動、思想、宗教、事件関係者等を賛美・支持したり
批判・抑圧する意図はありません。分別のつかない、またはつけられない方にはプレイをおすすめできません。
教科書でも参考書でもありませんので、鵜呑みにしないで下さい。どうかご自身でお調べになって下さい。
そしてクリアした方で以下の文章を読んで、もしまだ私が取りこぼしているポイントや沖縄特有の知識などがあったら、教えてもらえると助かります。
沖縄県民ではない上、新型ウイルスの影響で近所の図書館や書店がどこも開いておらずにネット上で情報収集をしたので不確定な情報を書いているかもしれません。
この自粛環境の中でさえなければ、今すぐにでも私は図書館に走って、参考文献を読み漁りたい!!!と思うぐらい、このゲームに夢中です。
ではでは以下、ネタバレ注意!!
一周目をクリアしたあと、気になって「沖縄 ジェット機 墜落 小学校」で検索し、「宮森小学校米軍機墜落事故」の記事が出てきた時、私は椅子から転げ落ちるかと思うぐらい驚きました。
現実にあったことだったんだ、と。
そして事故の記事を調べれば調べるほど、気にもとめなかったゲームの一画面が意味を持つことに。
宮森小学校米軍機墜落事故
1959年6月30日午前10時40分頃に、アメリカ空軍のF100Dが操縦不能となり、パイロットは空中で脱出、機体は民家35棟をなぎ倒した後、石川市にある宮森小学校(現うるま市立宮森小学校)のトタン屋根校舎に衝突、さらに隣のコンクリート校舎を直撃し、炎上した。
事故による火災は1時間後に鎮火したが、死者17人(小学生11人、一般住民6人)、重軽傷者210人、校舎3棟を始め民家27棟、公民館1棟が全焼、校舎2棟と民家8棟が半焼した。また、やけどによる後遺症で事故の17年後に1人が23歳で亡くなっており、死者の合計は18人となる。
事故当時、学校には児童・教職員ら約1000人がいた。当時は2時間目終了後のミルク給食の時間で、ほぼ全児童が校舎内にいた。特に直撃を受けた2年生の教室の被害が最も大きく、火だるまになった子供たちは水飲み場まで走り、そのまま次々と息絶えたと伝えられている。
あゝこの悲惨 - あなたたちの冥福を祈ります-
宮森小学校校長 作 仲嶺盛文
これでよいのか 戦争がすんで十五年もなるというのに
基地の島に住むわれわれ民俗の大きな悲劇と思うのです
三十日火曜日の二時間目までこの美しい学園で先生とたのしくまなんだあなたたちは
Z機の爆音と共に 全身火だるまになり先生に助けてと一声のこして
一瞬にしてこの世から消えさっていった
あまりにも悲惨な事ではないか
私はどうしてよいかわからない
けれど、もうどんなにないたってわめいたってあなたたちは帰らない
あゝ私は勇気を出しておちつきをとりもどし あなたたちのめいふくをいのります
どうかあなたたちも安心していって下さい
出典
http://www.ggvp.net/himawari/miyamori.html
ED1,2のラストで妹の『ゆき』が10時で待っているのも
ゆきが待っている教室の机が18個なのも
13時の『自習時間』に行ける箇所の一部に、18の墓標があるのも
全部理由があることだったんだ……と。
2周目で、18個の椅子と墓標に気付いたときには、しばらく「18…18あるじゃん……」と呆然としました。
本作の主人公と妹の『ゆき』。
この関係性のベースは、後述する「琉球神道」の”おなり神”。
そこにプラス、1924年に発行された宮沢賢治の詩集「春と修羅」にある「永訣の朝」でいいと思う。
まずは「永訣の朝」から。
けふのうちに
とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ
みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)
ED3『絵空事のニライカナイ』でゆきがいる場所は雲の上。
喋るセリフにも「雪」の文字が入っている。
確証はないけど、熱であえぐイベントや、太陽系惑星の並びが謎解きの鍵になっているのも、この詩からかも?
はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから
おまへは わたくしに たのんだのだ銀河や 太陽、気圏(きけん)などと よばれたせかいの
そらから おちた 雪の さいごの ひとわんを……
このゲームの舞台は、1959年。
- アメリカ統治時代
アメリカによる直接統治が始まっても戦後の混乱は続き、沖縄の人々の生活は米軍からの配給によるものだった。ポークランチョンミートやコンビーフなど、米軍の物資は、その後の沖縄の食生活に大きな影響を与えた。また、沖縄には通貨がなく、昭和23年(1948)になってB型軍票(B円)に統一され、その後約10年間使用された。その後は、復帰までは米ドルが基本通貨となった。出典
メニュー画面を開くと、所持金額の単価はちゃんとドル。
一回も金銭をやり取りする仕掛けはないからずっと0のままに、細かいところまで作り込んでるな〜と関心した。
(1)方言札の特徴
[基本的特徴]
学校内で方言を話した児童は方言札を首からぶら下げられ、その児童は方言を話した児童を見つけて札を渡すというように使用されていた。
方言札以外の罰則(掃除当番にされた、廊下に立たされたなど)が与えられることもあった。
[回避方法]
方言札を持った児童が他の児童を叩くことで「アガー(沖縄方言で「痛い」という意味)」と言わせ、方言札を渡す方法があった。今回の調査で方言札の使用が確認された時期は 1936 年~1962 年頃である。
出典
正解時に嘘をついていた他の生徒が罵る方言の意味は以下の通り。
『みださー』:場を乱す人。
『としおの ゆくさー』:としおの嘘つき
『としおの まじめじらー』:としおの真面目気取り
ただ、ここで正解の場所を教えてくれる『としお』なる人物、職員室で見える2年担任の下の名前と同じなのは何か意味があるの……か……?
方言札は約30年前、1930年代にはあったというし、『比屋根』は沖縄の地名なので、この先生が元沖縄の学生であっても全然おかしくない。
嘘を言わずに主人公を助け、同級生から真面目気取りと言われるのも、後に教師になるような人物だから……とか。
そこまで深読みする内容でもないかもしれないけど。
タイトルの『えけり』とED1の『オナリ神』 、随所に出て来る単語は、沖縄で信仰されている琉球神道から。
大体がゲーム内で説明されているので、わざわざ調べる必要もないけれど、調べた方が色々納得はいきます。
おなり神(おなりがみ)またはをなり神(をなりがみ)とは、妹(をなり/おなり/うない)が兄(えけり/えーり)を霊的に守護すると考え、妹の霊力を信仰する沖縄地方の信仰である。
「兄から見た妹」を「をなり(おなり)」、「妹から見た兄」を「えけり」と呼ぶ。
つまりをなり・えけりは、兄と妹のみで完結した関係性なのである。
をなりとえけりの想定する宇宙には、男女は兄と妹しか存在しない。伊波普猷はこのことから、「この概念は男女間のすべての関係性を内包するもの」と指摘した。
つまり、をなり・えけりには、肉親としての男女、恋人としての男女、夫婦としての男女の関係が多層的に想念され、その世界において、兄=男が世界を支配し、妹=女は男を守護し、神に仕える神女と位置づけられるのである。
ED1のエンドロールで、彼の一生を妹が見守っているのは、文字通りゆきが主人公のおなり神だからなんですよね〜。
(ただここ、ゆきがめちゃめちゃ時計を気にするのでひやっとしました。
主人公の死を待ちわびているように見えなくもないので。実際待ってるんだけど)
この琉球神道「おなり神」をベースとした兄妹の特別な関係を強調、補強する要素として前述した宮沢賢治「永訣の朝」を持ってきたの、個人的にはすごくグッときました。
東を神域とする琉球神道では、反対に位置する西を「死の領域」と考えています。そのため、死者の埋葬(当時は風葬)は、西側の崖や洞窟で行われていました。
終盤で主人公が飛び込む裏門の海は、確かに西にある。
ちなみに、ここで読める豊穣の神、ミルク神は植物の謎掛けでヒントをくれた男のことだと思う。
終盤で中盤のキャラクターの解説が出されたので、1周目は「え…?誰のこと?」としか思わなかったな。
話は逸れるけど、あの植物の謎掛け部屋、すごくちゃんと調べて作ってあるなあと関心する。
ミルク神に供えられている魚の目がくり抜かれているの、あれ「片魚の目」ですよね?
つまり以前のわれわれの神様は、目の一つある者がお好きであった。当り前に二つ目を持った者よりも、片目になった者の方が、一段と神に親しく、仕えることが出来たのではないかと思われます。片目の魚が神の魚であったというわけは、ごく簡単に想像して見ることが出来ます。神にお供え申す魚は、川や湖水から捕って来て、すぐに差し上げるのはおそれ多いから、当分の間、清い神社の池に放して置くとすると、これを普通のものと差別する為には、一方の眼を取って置くということが出来るからであります。実際近頃のお社の祭りに、そんな乱暴なことをしたかどうかは知りませんが、片目の魚を捕って食べぬこと、食べると悪いことがあるといったことは、そういう古い時からの習わしがあったからであろうと思われるのみならず、また話にはいろいろ残っております。
出典
緋寒桜といえば沖縄県出身のシンガーソングライター、coccoの曲の歌詞にも出てきた記憶があるので、結構有名かな?
放課後の校庭 緋寒桜
話は戻して、琉球神道の話。
オボツカグラへの行く道が上にあるのは、天空の異界だから。
琉球神道では、神がいる他界概念としてニライカナイとオボツカグラを想定する。ニライカナイは海の彼方、あるいは地底にあると考えられ、そこは豊穣と命の根源となる異界である。ニライカナイ信仰は東方信仰と混交して、東方にあると考えられるようになった。一方、オボツカグラは天空にあると考えられる異界である。もともとは国頭地方の信仰と考えられ、琉球王国時代に喧伝されて、宗教支配の為の王権神授論的な権威付けに用いられた。まとめると、ニライカナイは水平線上の庶民的な、オボツカグラは垂直にある権威的な他界といえる。ちなみに西方は魔界があるとされている。
出典
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%89%E7%90%83%E7%A5%9E%E9%81%93
見落としがあったら、ぜひ教えてください。
EDは(攻略記事を見てプレイする限り)ゲームオーバー2種+ED4つの計6つ。
どの結末も沖縄独自の文化風習を取り入れていて、面白かった!
ゲームオーバーですら、ちゃんと意味付けがされているの、律儀で真摯だと思います。
ビジュアルや、豚料理を供えるのを間違えると殺されるあたり、ウワーグワーマジムンの可能性が高いね。
ゲームオーバー2:前述した『方言札』による暴力で死亡
『逃げる』を選択すると、問題は先送りで死後にもう一度コース。
この時の主人公は皺くちゃで、認知症になるまで生きたらしいので、結構長生きしてますね??
ただ逃げることは悪いことではないと老婆が言った通り、そんなに悪くない結末なのではと思ったり。
もう一度、ゲーム開始時のチャイムが鳴り響く演出も、どこかホラーっぽくていい!
ED3『絵空事のニライカナイ』
『もう嫌だ』を選び、老婆がくれた”花”を服用すると、『絵空事のニライカナイ』ED。
ニライカナイは海の彼方、もしくは地の底にあるのであって、雲の上にある時点で違うんだよなあ……。
老婆がくれた”花”のアイテム欄を見たときは、「ひえっ」となりました。
めちゃめちゃホラーじゃん!!!!!!
420、4:20若しくは4/20(フォー・トゥエンティ, four-twenty)は、大麻を表すスラング。アメリカ合衆国の大麻のカルチャーにおいて、420という番号は、大麻の消費と関連して用いられる。
出典
https://ja.wikipedia.org/wiki/420_(%E5%A4%A7%E9%BA%BB)
沖縄の方言に「ゲレン」と「フラー」があります。
どちらも沖縄の方言「ゲレン」と「フラー」「馬鹿・気違い・アホ」という意味で、
出典https://katsujuku8317061.ti-da.net/e3010099.html
特に「ゲレン」が遣われるときには、「気の狂った大ばか者」というニュアンスが強く、言われた方はかなり気分を害します。
これぞノーマルエンドという感じがしますね。
『向き合う』を選択し、エンドロールも正式のものが流れるトゥルーエンド。
ゲーム開始時に教室で目を覚ました時刻の夜8時と、妹が迎えにきてくれる時刻をここで繋げてきたの、本当に上手いな〜と唸った。
ゆきが来てくれた場面は、さすがにちょっとうるっとくるよね…。
娘に自分の妹の話をして、息を引き取るところは、エンドロールのスペシャルサンクスの「My father」の記述があったことと関係あるのかもと思いました。邪推だけど。
小学校の調べ学習か?ってぐらい、引用文と画像が多めになっちゃったけど、それぐらいに調べるのが興味深いゲームでした。
それでいて、時間操作のギミックに意味を与えることで、1つの探索ADVにまとめあげているその手腕とセンスが、私はすごく好きです。
いいゲームでした!本当に!