復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

夏の終わりが君の 幻想覚ますの分かっているから / ビッケブランカ『夏の夢 / WALK』【感想】

夏の夢
平成30年、社会人の夏。
ず〜〜〜っと出勤中のカーステレオから流していたのが、ビッケブランカ「夏の夢 / WALK」のCDだった。
最初はAniUTaの配信で聴いて、すぐさまiTunesでDLして、それでも足りなくてCDを買った。
この音がなかった夏の朝を、私はもはや信じられない。
それぐらい、この音楽達に救われていた。
まあ、ほんと、ごくふつーに仕事が辛かったんですよ。

「夏の夢」が翳した夏の陽、
「WALK」が慰めてくれた孤独の道のり、
「夏の夢 (cold water remix)」が垂らした滴の冷たさ、
「Black Rover (city raven remix)」の曇天にこもる烏の羽ばたき。

心の奥底に溶け馴染み、すっと視線を導き上げてくれるような彼の歌声に、支えられていた夏だった。
何度も何度も鮮やかな情景で、色で、光で、現実の憂鬱を塗り替えてくれたことを、忘れたくない夏だった。

何というか、小川洋子の文章の一節を思い出しす。

これは、油断すると自分でも忘れてしまうくらい遠い昔の話なので、ここに記しておこうと決めた。
 たぶん、忘れない方がいいのだろうと思うし、もし僕がいなければ、他の誰も代わりに語ることができない記憶なのだから

口笛の上手な白雪姫

口笛の上手な白雪姫

 

私以外の、誰にも代わりに語ることのできない情景を見せてくれた曲たちに、心からのお礼を言いたい。
ありがとう。本当にありがとう。
この一枚があったから、生きていける夏だったよ。

 

 


1.夏の夢

あ〜〜〜〜、泣く泣く泣く、やばいエモい。(条件反射)
父親が運転する車のカーステレオから流れてきそうな、懐古感あるサウンドがもうやばい。
イントロから泣ける。
ピアノは、肌を伝い落ちる水の滴で、パーカッションのタンバリンは微かに軋む砂浜で。
左側のアコギは遠くの方から流れるラジオのようで、右側のエレキは人々のざわめきだろうか。
ドラムは、ビーチサンダルよりも重く砂浜に沈み込むハイカットスニーカーの足跡で。
一つ一つの音が表している物がちゃんと分かるし、それらすべてが合わさって一つの光景になっているの、見えるよ。
なんで見えるんだろう?不思議だけど本当に見えるんだよ。
歌詞なんかもう全部好きです。夏の夢に相応しい言葉と、歌声がここで鳴っている。

夏の終わりが君の 幻想覚ますの分かっているから 
 永遠に僕が終わらせないって 生意気を目を視て言えたら」は単純にその言葉の詩性が好きだし
黄色い傘の下から はしゃぐ仲間を眺めながら
 引いた目線は海に立っていちゃ 決して視えない夏を視ていた」はリズムと合わさるとやばい中毒性がある。

今曲はラジオ・オンエアチャートで3位を記録したそうだけど、そりゃそうでしょ名曲だもん!
現に私も束の間の休日、家族と同乗するカーラジオから、この「夏の夢」がオンエアされてるのを聞けた。
いい曲だよね、ほんと。


2.WALK(movie ver.)

あ〜〜〜〜、泣く泣く泣く、やばいエモい。(2回目)
ははは、笑っちゃうぐらいすごいわ。イントロから泣けます。
メトロノームが刻んでいるのは、これまでの無機質な道のり。
それがゆるんで、ほどけて、広がって、有機的なドラムに繋がっていく、それだけで泣ける。
Aメロも同じリズムのドラムとキーボードが鳴っているけど、その音はどうしてこれほどまでに優しいんだろう。

この曲を聴きながら実際に歩いてみるとね、本当にどこまでも歩いていけそうで。
これまでの全てを肯定して、これからの行く先を導いてくれるものがあるとしたら、私はこの曲がいい。
この音に、鼓動を重ねて生きさせてほしい。

歌詞なんかもう全部好きです(2回目)

想像の光景が未来と信じた だって泣いてやっと声に出して

誰だって嘘を嘆いて 口にすれば短いようで ほんとは意外と簡単だったりして

名前などないが 長い道を来た 揺れる想いが証なんだ その声で慰めてくれないか

いつだって僕はまるまって なにもかも投げ捨てるほうで 見放されるのに慣れてしまったのかな
 潤んだ象徴に誰も気づかないが なんかそれでいいと思っていて

どうかキリのない このちぐはぐ模様に どうか意味よあれと願っていた

らへんとか、ほんと最高だよね。ほら、全部だよね。
周囲と馴染んで、生きることがずっとずっと不器用だった。
そういう傷口に、笑えるぐらいに沁みる。

寂しくなければ 本など読む必要がない』っていう言葉があるんだけど、私にとっては音楽もそうだ。
吉田篤弘 / 「おかしな本棚」)
寂しくなければ、一人で音楽を聴く必要なんてない。
でも私は寂しかったし、今曲に出会えたのなら、今までずっと寂しがっていた意義も確かにあるよ。
その声で慰めてくれないか」のファルセットに救われたと思う、こんなどうしようもない人生で良かった。


3.夏の夢(cold water remix)

夏の夢 (cold water remix)

夏の夢 (cold water remix)

  • provided courtesy of iTunes

原曲が海辺の砂浜だとしたら、こちらは扇風機とクーラーが効いた室内が浮かぶ。
人工的で、ひやりとした夏に揺蕩うようなゆらぎ。
硬質なピアノとドラムの涼やかさに、永遠に続くかと思うような気だるい心地よさ。
原曲も大好きだけど、こちらもセットで大好き。
「cold water remix」なんて、上手い名前を付けたなあ。

 

4.Black Rover (feat.SKY-HI city raven remix) 

Black Rover (feat. SKY-HI city raven remix)

Black Rover (feat. SKY-HI city raven remix)

  • provided courtesy of iTunes

こっちは原曲の方が好きかなあ。
juvdashavnothinpeelleskafbadudachechigaw
astauxtekalonshamilupvevuvenivanovafle」という呪文を2回繰り返すところは好きだけど。
あと「city raven remix」っていう名前もいい。
街の烏。黒い鳥。


「WALK(movie ver.)」が好きすぎて、タイアップ先の映画「詩季織々」も観てきました。

詩季織々 [DVD]

詩季織々 [DVD]

 

内容は普通だったけど、クオリティの高いアニメ映像をスクリーンで観るのは久しぶりだった。
観終わったあとの多幸感がすごすぎて、しばらく呆然としていた。
「劇場は日常からの逃避先」だと初めて実感したよ。
新海誠フォロワーによる映画だし、作画好きの方にはおすすめ。内容はほんと普通。