両親の性交で生まれた、饒舌なあなた / 西加奈子「炎上する君」【感想】

西加奈子「炎上する君」の文庫本(又吉直樹(ビース)の解説付き)を読んで、だーだー泣いている。

収録されている8つの短編。
その中でも特に「あなたは、太陽の上に住んでいる。」から始まる一番最初の短編、「太陽の上」が泣けて泣けてしょうがなかった。
一度でも引きこもり経験がある人はぜひ読んでみて。
これは私たちのことを描いた小説だから。
(私は中学2年生・高校1年生の時に2回、半年間不登校で引きこもった経験あり)


だって8ページ、日常生活品を通販する主人公の行動描写がもうあの時の私だもん。

注文した箱が届けられるとき、あなたはいつも緊張する。
SMプレイ用の道具が出てきたらどうしよう、卓上卓球セットが出てきたらどうしよう。
それらは「誰かとやると楽しいもの」だ。
無意識で、自分が、「誰かとやると楽しいもの」を、買っていたらどうしよう、とあなたは危惧している。

しかし、あなたはそんな心配をしたことは一度もないし、これからもしないだろう。

あなたの手元に届くのは、初心者向けのタロットカードだし、プレイステーション・ポータブルだし、大人用の緻密な塗り絵だ。
姫路城と松本城のプラモデルだったこともあったし、プランクトン育成セットだったこともあった。

あなたは、ひとりだ。

タロットカード、PSP、大人向け塗り絵、プラモデル、育成セット。
引きこもりが選ぶ遊び道具の品選び、笑っちゃうぐらいに的確だ。
実際、あのときの私はこれらほぼ全部に、手を出そうとしたよ。
「誰かとやると楽しいもの」から目を逸らし続けて、「自分ひとりでできること」ばかり選んでやっていた。
それでいいと思っていた。だって、そうするしかなかったから。

だからこそラスト、女将さんの性交の声で、再誕生する主人公は私なのだ。

あなたは少し、震える。なぜか分からない。
夏生まれのあなただが、今日が誕生日であると思い出す。
日にちは分からないのだが、なぜか強くそう思う。今日が自分の誕生日だ。

黒い文字は、乱暴な律儀さで、あなたのノートに「それ」を教えている。
「誰かとすると楽しいこと」。

あなたは饒舌だった。

今日があなたの誕生日だ。
あなたは両親の性交で生まれた。饒舌なあなた。

あなたは降りてくる。
太陽の上から、降りてくる。

 
性交=「誰かとすると楽しいこと」で、私は生まれた。
この単純明快な事実が、ひどく胸をつく。
「誰かとすると楽しいこと」をずっと避けていた寂しさも、それを諦めることによって得ていた安寧も、すべてがこの小説の言うとおりだった。

感情に蓋をして、すれ違う人を木のように眺めて、ひとりぼっちで、世界を泳いで。
ひとりぼっちで。
私は、ひとりでいたくなかった。(「空を待つ」より)

私が引きこもりになったのは、2回ともクラスに親しい友達を作れなかったことが原因だった。
(子供っぽいって笑うでしょ?
でも社会人になってからも、「職場に心を許せる人がいない……他の同期はちゃんと馴染んでるのに……」って泣いてるから、なかなかこの問題は根が深いよ)

出来ることなら、この本を当時引きこもって、茫漠とした日々を耐えていた私に贈ってあげたい。
「誰かとすると楽しいこと」を求めることに、怯えていた私に。

我々の些細な苦しみは、誰かの思い苦しみと比較され、苦しみと感じること自体が悪であるように思わなければならないのか?

僕達は自分の悩みさえも悩んではいけないのか?(又吉直樹(ピース)の解説より

いいに決まってる。
一人だってことに悩んでいいし、苦しんでいいし、解決しようとしていいんだよ、って言ってあげたい。

歩こう。
太陽の上に住まうのでもなく(「太陽の上」)
空に浮かぶのでもなく(「ある風船の落下」)
船に揺られるのでもなく(「船の街」)
寝台の上で死体になるのでもなく(「トロフィーワイフ」)。
足を燃やしながら(「炎上する君」)、地面を歩こう。