17「The world to reverse.」収録、律「フランカ」というフリーゲームの短篇ノベルをプレイした。
プレイ時間は約15分。
フランカという名を巡り、5人の登場人物―…劇場裏の少年、橋の上の女、花束を落とした少女、背の高い黒い男、そしてぼくが繋がる幻想的かつ不条理もの。
……そんなの、私が好きにならないわけないだろ!!ってぐらい好みでした。うん、すっごい好き。
舞台は中世ヨーロッパ、もっと限定すれば1630年のイタリアだろうか。
フランカは女性名と同時に、 lingue Flanca 【共通語、補助言語】というイタリア語から取られたものだろう。
赤黒い染みと病の臭いがこびりつく世界観がまずツボだったし、何より根底に流れている寂しさにやられてしまった。
誰も彼もが慰みを求め、不条理で寂しい、ただそれだけの物語。
ただそれだけの物語を求めて、私はいつもネットの海を泳ぎ本の背表紙に手をかけ、歌詞カードを広げているんだと思う。
何の巡り合わせかは分からないが、今作のダウンロードページまで自分が泳ぎつけたことをただ幸運に思う。
以下、ネタバレ感想。
ちなみにBLっぽい描写もあるので、腐女子はやろーね!めっちゃ萌えるよ!
今作の共通語「フランカ」が持つ意味は主に2つ。
劇場裏の少年が演じる、役としてのフランカ。
橋の上の女でもあり、花束を落とした少女の姉でもある、画家としてのフランカ。
主人公であるぼくは、フランカを支援し、フランカの身代わりになり、時にフランカそのものになる。
ゲーム紹介文に「きみが何かを提案すれば、ぼくはそれに応えるだろう。道は、まだ決まってない。」とあるが、裏を返せば選べば道は決まるということだ。
ぼくの選択次第で、彼らの運命は如何ようにも変わる。
手を腐り落として死ぬ女も、去勢手術失敗のせいで命を落とす少年も、全てはぼくの選んだ道次第。
ただぼく(=プレイヤー)に出来ることは選ぶことだけで、選んだ道がどこへ繋がり、どこで途切れるのかは見えない。
不条理ものと呼ばれる所以は、その分岐にあるのだろう。
一寸先は闇。ストーリーに加え、そう思わせる黒地に白文字のメインデザインも良かったな。
今作の淡々としながらも雰囲気ある文章はもう全てが好み。
「その花……、毒持ちよ」とか
「痛さに泣き倒れたぼくの靴を乱暴に脱がす。
けれども彼はそれ以上何もしなかった。
ただ、唄ってほしいとつぶやいた。
靴を奪って動けなくして、じぶんのものにしたつもりなのかもしれなかった。」とか
「気づけば彼も泣いていた。暗くて気づかなったけれど、彼も、泣いていたんだ。」とか。
ここらへんは、腐女子なら萌えるでしょ。萌えないわけがないでしょ。
だが、特に気に入っているのは、ツイシンで背の高い黒い男が語った言葉だ。
「どうか、どうか、慰みを
このおれに、ぼくに、わたしに――
幸せなフランカの慰みを、ください。」
ぼく以外の4人にとって、フランカはそれぞれ大切なものを司る名前だった。
ぼく以外の4人にとって、フランカはそれぞれ大切なものを司る名前だった。
劇場裏の少年にとっては今、橋の上の女にとっては才能、花束を落とした少女にとっては嫉妬、背の高い黒い男にとっては栄光。
それをもはや失いつつある自分に、どうか今一度の慰みを、フランカ。
対し、主人公である「ぼく」はフランカの幸せを願う人物だった。
だから彼は、フランカという単なる名が彼ら4人に何の救いも、もたらさないことを知っていたのだと思う。
「ぬくもりを求めて伸ばした両腕が、結局自身を抱くしかないように」
だから彼は、フランカという単なる名が彼ら4人に何の救いも、もたらさないことを知っていたのだと思う。
「ぬくもりを求めて伸ばした両腕が、結局自身を抱くしかないように」
それでもぼくは、フランカに語りかける。
「だからね、フランカ。
どうか、暗闇を恐れないで
どうか、幸せであって。」
今作で幸せだったのは誰であろうと考えると、該当者なし、という結論に落ち着く。
「だからね、フランカ。
どうか、暗闇を恐れないで
どうか、幸せであって。」
今作で幸せだったのは誰であろうと考えると、該当者なし、という結論に落ち着く。
ただみんながそれぞれに何かを失い、それぞれに不幸だった中で、フランカという名を求めたなら、それはきっと希望と呼ばれるものなのだろう。
不幸せな人間が、希望の慰みを求め、そして希望そのものが幸せであることを願う。
求めつつ願う、そんな倒錯的な哀しさに、切なくも心動かされた。
少なくとも、私が握りしめている、報われない寂しさへの一つの答えだと、そう感じた。