復元可能な灰壺

個人的な感想文ブログ

会いたくて会いたくて震えはしないけど眠れない Aimer「After Dark」感想

 

After Dark

 

アニソン界のEDクレジットでよく名前を聞くので、聞いてみた。
Media Goもジャンル:アニメと言っていたのだが、歌詞の大半はだいぶ西野カナ寄りの恋愛曲であるのでご注意を。
そしてアルバム内に一曲だけある「澤野弘之」の提供曲の歌詞があまりにもよかったのは幸か不幸か。

 

 

1「After Dark -prologue-」:ピアノオンリー?と思った矢先にいきなり朗読が始まったので少し驚いた。
「取り残された二人 灯されなかった明かり 夜はすぐそこに」という歌詞がこのアルバムのコンセプトなのだろう。
イントロが2番のイントロと似通っていて、そういう遊び心は好きだ。

 

2「ポラリス」:星空と凍りついた空気、重い青の海面が想起されるようなるアレンジ。
「君はまるではじめから “愛されること”ができないみたいだ」というフレーズが印象的。
ただ綺麗でコールドな情景はよく伝わってくるのだが、言ってることは
「孤独だとうつむいてる君は 一人じゃない そばにいるよ」みたいな感じである。

 

3「words」:「もうひとりにはしないよと 抱きしめてたその腕は、どこにも無い」とさっそく前曲の歌詞を否定気味である。
まあ同じ登場人物なわけではないのだろうからいいのだが、通して聞くと「おいおい、どっちなんだよ」と思わなくもない。
サビと間奏の壮大なストリング、あとレインスティック(?)の竹のような乾いた音を用いたアレンジが魅力的。
アウトロのウインドチャイムも美しい。

 

4「AM02:00」:午前2時の段階で言う「また明日 きっといつものように会えるよね?」の明日っていつを指しているのか。
とにかく早く寝よう。日付が変わる前には寝よう。

 

5:「After Rain」:ようやくアップテンポめで明るい曲。アルバムの流れの中でいいアクセントになっている。

 

6:「Amazing Grace」:なぜ歌唱力に自信がある歌手はアメージンググレイスを歌いたがるのか。
少しwikiで検索してみたら「中島美嘉」「華原朋美」「May.J」等もアルバム収録曲にしているそうで。
……どことなく不安(将来的な意味で)になるラインナップとしか言いようがない。
※「wretch:とても不幸な人」

 

7:「あなたに出会わなければ~夏雪冬花~」:ピアノオンリーのみで歌い上げた一曲。
ただ歌詞がちょっといただけない。
サビで「あなたに出会って切ないけれど、でも出会わなかったら一人泣いてただけ」(要約)みたいなことを言っておいて
ラスト「いまでも まだ 目を閉じれば すぐそこに あなたがいる」…ってそれは現実逃避なのでは?
何だろう、「失恋しました!!私!!」感がすさまじく、受けつけられなかった。

 

8:「今日から思い出」:「明日はもう一人だ」なんて言っているが、電話をくれるママがご存命だろ…
彼氏もしくは伴侶を失った悲しみを歌ったのだろう、それはわかる。
でもその悲しみの表現の仕方がかなり自分本位だから、聞いてるこちらは白けるしかなかった。

 

9:「星屑ビーナス」:メロディーはスローテンポながらもキャッチーでいいのではないだろうか。歌詞についてはもう何も言うまい。

 

10:「寂しくて眠れない夜は」:…えっ、何故ライブMCを曲のアウトロの後に収録するのか?しかもそのMCのボリュームが小さくだいぶ音量上げないと聞き取れず、なにより内容が次の11曲目の案内とは…?

それは11曲目「RE:I AM」の冒頭に入れるべきであって、無関係のこの曲の末尾に入れるべきではないと思った。

 

11:「RE:I AM」:「おっ!この曲は歌詞がいいな!」と思ったら作詞作曲提供だった。何だろう、複雑だ。
でも本当に歌詞が素晴らしかった。正直、このアルバム内では残酷なほどに。
タイアップ先の『機動戦士ガンダムUC』は知らないので、憶測だが考察を。

月に手を向けたまま 君は空の星に消えた
もう2度と聞こえない君の歌声は 降り注いだ雨のサイレン 僕の代わりに今この空が泣き続ける

月と星。同じ夜空に光るものではある。
だが月は「惑星」であり太陽の反射光で光るのに対し、夜空に光る星達は「恒星」であり自らの爆発によって光っている
彼女は『月』に手を向けたまま『星』に消えた。月にはなれなかったのだろうか。
そして人類は月へ行けるが、恒星へは行くことは不可能。(現段階では一番近い恒星にでも、約4.2光年かかる)
ここら辺はガンダムの設定と絡めているのだろう、たぶん。
そう考えると、遠くへ消えた「君」への喪失感が深く伝わってくるいい表現だと思った。
同時に「僕の代わりに」と言うのだから「僕」には何かしらの理由があり泣けない。彼の孤独感もよくでている。

 

これまで踏みつけてきた教えを 今掻き集めこの胸に当てても 救い求め歌うようなお遊戯に見える 物語る大人のように」もすさまじい。
その教えを教わったのは幼年期なのだろう。それを踏みつけてきた少年期。そして今の青年期。大人にもなれずに
幼年期にも戻れずに。子供と大人の狭間でもがき苦しむ、15歳ぐらいの少年の姿が目に浮かぶようだ。

他にも言語的センスを感じさせるいいフレーズばかりだった。
一本の小説を読み終えたような満足感があった。よい歌詞は物語なのだ、と常々思っていたが今回もそうだ。
「君」との別れから苦しみ悩む過程を経て、それでも進む少年。そのかすかな強さを感じさせる物語。

 

作曲家としての「澤野 弘之」は名前だけ知っていたが(「進撃の巨人」や「まれ」等)
作詞家としての才能も抜群にある人なのだと思い知らされた。
ボーカルプロジェクトもやっているみたいなのでこれから追っていきたいと思う。

 

12:「六等星の夜」:こちらのタイアップ先「No.6」は原作あさのあつこの小説が好きだったので、少し見ていた。
SFのくせにラストがトンデモ展開なのであまりおすすめ出来ないが、「六等星」というのはこのタイアップ先を意識しているようで
好感が持てる。他は特にない。


アレンジがある前半の流れは良かった。
ただ6曲目からLiveバージョンとなり、アレンジがピアノオンリーのかなりシンプルなものになる。
歌唱力は問題ない高水準なのだが、代わりに歌詞のありふれた感が浮き彫りとなってしまったのがキツかった。
そんな曲が4曲続いた後に、「澤野 弘之」作詞の言い回しに富んだ物語性のある良い歌詞が出てくるのが、これまた何ともいえない。
私が好みだと思ったAimerの雰囲気は、アレンジ含めてのものだったのだと悟った。
作詞は他に任せて、歌のほうに専念してもらえないかなあと身勝手な一消費者は思うのである。